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神の資格は、相思である
「彩、起きろ、彩」
よく知った低い声、そして肩にかかる大きな手の感触に、あたしはとろとろとしたまどろみから引きずり出された。
ああもう、うるさい。あたしは眠いの。袖に顔をうずめてずっと無視していたけれど、手はしつこい。
「彩、狸寝入りはやめろ」
誰がタヌキよ。あんたが来るまではきちんと(?)寝てたんだって。
昔から、無理に揺すり起こされるのは大嫌いだ。旧知の仲だから許してあげるけれど、文句が飛んでくるのは承知済みって思っていいのかな?
「うっさいなぁ」
ぱっと振り上げた鼻先に、尚鋭のごつい顔がある。あ、だめだと思った瞬間にはもう遅かった。あたしのおでこが尚鋭の鼻っ柱とぶつかって、ごつんと鈍い音を立てる。
「いったーい!」
「……俺の方が痛い」
尚鋭のくっきりとしたまゆ毛は不機嫌そのもの。だけどあたしのほうがもっと不機嫌だ。むっつりと睨みあって三十秒、根気比べに負けたのは尚鋭だった。視線をはずし、膝を崩すとあたしの隣に座る。そのごつい顔にふさわしい、着物の上からもよくわかるごつい身体は圧迫感がすごい。
「こんな昼間からぐうぐうと、大層な身分だな」
「午睡くらい取ったっていいでしょ。どうせこの天気よ、参拝客なんて来ないんだから」
「罰が当たるぞ」
「残念でしたー。ここの神様はあたしですー」
むっつりと鼻の頭をさする尚鋭の向こう側、窓の外は一面の銀世界だ。昨日の晩から降り始めた雪は、今日の昼になってもやむ気配がない。当然、こんな足元の悪い中、わざわざ神社にお参りに来る奇特なひともいない。つまり、あたしは今日、ひさびさにのんびりとした一日を過ごしていたのだ。
「それにね、確かに午睡はしてたけど、あたしは徹夜してほとんど寝てないの。ちょっとくらい休憩したっていいじゃない」
徹夜、と尚鋭が目を軽く見開いた。
「どうしてまた」
ずっと隠してたけれど、もうこうなったら言うしかない。どうせあと数寸、尚鋭が視線をずらせばわかってしまうことだ。
「縁結び一級の試験がもうすぐだからに決まってんでしょ」
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