神の資格は、相思である

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「そうなんだ……」  だらりとしていたつま先が自然と揃う。あたしは少し身を乗り出し、ふたりの会話に耳を傾けた。  平野さんは子どものころからずっと近所に住んでいるっていう、ここの氏子だ。少なくとも週に一度はお参りにやってきて、家族の、とりわけ、あの智貴って子の無事を願っていた。最近姿を見ないなって思ってたのは、気のせいじゃなかったんだ。 「それは大変だ。怪我の具合はどうなのかな」 「足の骨が折れたんだ。ぜん……ぜんち? 一か月だってお父さんは言ってた」  智貴はそう言って、こっち、と右の足をさして見せる。 「じゃあ、おばあちゃんの足がはやく良くなるよう、神様にお参りに来たんだね」  宮司が言うと、とたんに智貴の顔が険しくなった。 「無駄だよ」 「智貴くん?」 「だってここの神様、役立たずだもん。おばあちゃん、いつもこの神社にお参りしてたのに。雨降ってても、寒くても暑くても、お正月も! なのにどうしてだよ。御守りも御札もぜんぜん役に立たないじゃないか! ここの神様、嘘つきだ!」  びりり、と空気も、大杉の枝も震わすような大声で、智貴が怒鳴った。 「嘘つき……ですって?」  あたしは思わず大杉から飛び降りた。  うまくいかなかった、だめだった……不幸を呪うあまりに、憤りを他にぶつける人々の、勝手な誹りや悪口も受けてきた。今までだってずっと。そんなもの気にしてはいられなかった。気にするつもりもなかった。けど、智貴の叫びはあたしの心を激しく逆なでた。 「ダメだよ、そんなこと言っちゃ。神様はね、わたしたちを見守ってくださる存在だけれど、すべての厄を除くことはできないんだ」  宮司はあくまでも優しく、諭すように智貴の目を見つめて語りかけた。 「子どもだからって何甘い顔してんのよ! あんたの仕える神様が嘘つき呼ばわりされてんのに!」  あたしは、あたしを見ることもできないふたりの側に駆け寄ると、紅く染まった指先を智貴に突きつけた。
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