神の資格は、相思である

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「あたしの何が嘘つきだって言うのよ。神様のことなんて何もわかっちゃないくせに。あたしが見えもしないくせに! だいたい、来たくもないのに嫌々来てるくせに、都合の悪いことが起きたら文句ばっかり!」  届きもしない大声で怒鳴りちらした。どれだけ怒鳴っても怒りはおさまらない。頭の中が煮えたぎるように熱くて、どれだけ呼吸をしてもその熱は逃げていかない。 「彩さま」  付喪神たちがあたしの剣幕に驚いて、境内のあちこちから飛び出してきた。 「彩さま、落ちついてくださいませ」 「うるさいっ!」  袖にしがみつく箒の付喪神を振り払う。付喪神はぎゃっと鳴いて、小砂利の上にひっくり返った。 「彩さま、いけませぬ」 「おやめください」 「いいから放しなさい!」  付喪神総出で全身にしがみつかれながらも、あたしは腕を大きく振り上げる。  天罰なんて与えたこともないし、やり方も知らない。でもあたしは神よ。こんな子どもに嘘つき呼ばわりされてたまるもんか。  宮司がそっとしゃがんで、智貴と視線を合わせた。 「じゃあ、智貴くんはどうして今日ここに来たんだい?」  宮司が穏やかに訊ねると、むっつりした顔をぷいっとそむけて、小さな声でつぶやいた。 「だいさんしてくれって、ばあちゃんが言うから」  あたしは息を飲み、手を上げたままで立ちつくす。  宮司の目じりにやさしい笑い皺が浮かんだ。 「そうか。じゃあそんなしかめ顔はやめて、おばあちゃんの分、しっかりと参ってあげないとね」 「うん」 「それから、神様に嘘つきなんて言ったことを謝ろう」 「……うん」  智貴がこっくりとうなずいた。まだ、ちっとも納得していない、それでも託された思いを果たそうとする、ひたむきな……不愉快な顔だ。  手水鉢の付喪神が、あたしの前に進み出た。 「彩さま、どのようなことがあっても代参の者を無下にしてはなりませぬ」  言葉は丁寧ながらも、厳しい声だ。 「わかってるわよ……!」  あたしはその言葉に、智貴を睨みながら、ゆるゆると手を下ろした。  連れ立って手水舎へと向かう智貴と宮司の姿が、湯気の向こうみたいにぼやけて見える。  きびすを返し、拝殿へと戻るあたしの背に、手水鉢が呼びかけた。 「彩さま、ご祈祷がはじまります」 「わかってるって言ってるでしょ!」  綿入れ羽織を脱ぎ捨て、あたしは大股に拝殿の中へと駆けこんだ。
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