神の資格は、相思である

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 縁結び一級は、資格の中でもかなりの難関だ。縁結び二級までは順調だったあたしも尚鋭も、一級にはなかなか合格できず、試験にひたすら挑んでは散る日々だった。  そんな折、この地は空前の家内安全の神不足となり、家内安全の【求神】が爆発的に増えたのだ。  地味かつ平凡、数ある神の資格の中でもあまり人気のない部類に入る。そのくせ覚えることや成すべきことは多岐に渡るから、いっそう成り手が少ない。その時巷にあふれた家内安全の【求神】は、三級であってもかなりの好待遇を約束されたものだった。  縁結び一級試験に落ちたばかりに加え、ずっと勉強漬けの日々にうんざり気味だったあたしは、そのぬるくておいしい話に飛びついてしまった。  簡単に言うと、憧れよりも実を取ったのだ。  その一年後、初志貫徹した尚鋭は見事に縁結び一級に合格した。そして、そのごつい容姿に似合わない務めをきちんと果たしている。 「あの時はそれでいいと思ったのよ」  あいまいにごまかして、あたしはなんとなしに教本をぱらぱらとめくった。  心から望んだものではないにせよ、せっかく神になったのに三級だなんて格好がつかないと、暇を見て勉強して、二級を取得した。毎日の務めも精いっぱいにやっていた。だけど、尚鋭や、他の縁結びの神を見るたび、心の奥の消えない憧れがちくちくとうずいて仕方なかった。  決定打だったのは、前回の資格試験で縁結び一級を取得して、国内でも有数の縁結び神社を任された、とある神の存在だった。  筆記も実技もダントツの成績で合格し、一躍有名神となった彼女は、聞けば、それまではただの竃神だったという。あたしよりもよっぽど家内安全の神にふさわしい出自の、きらびやかな躍進が、あたしの対抗心とやる気に火をつけた。  やっぱり、縁結び一級を取ろう。  そう思い立って勉強を再開したものの、昔取った杵柄というわけにはいかず、二級のおさらいだけでもかなりの時間がかかってしまった。たくさんの教本を買いこんで必死に勉強しているけれど、もう試験の日まであまり猶予はない。家内安全の務めをこなしながらの勉強は、ひょっとしたら、かつての勉強よりきついかもしれなかった。 「でも諦めきれなかった……だからまた頑張るの。それだけじゃだめ?」  切り揃えただけのまっさらな爪を見つめ、つぶやく。  あたしは、あの紅く塗られたつややかな爪を忘れられない。この爪はいつかあの紅をまとい、人々の想いをすくい上げるためにあるのだ。  その日を思うと、どれだけきつくても頑張れる。
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