神の資格は、相思である

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 うっそ、こんなにいるんだ。  縁結び一級の試験会場に足を踏み入れた途端、あたしはずらりと並んだ机の数に圧倒されていた。見るに、受験人数はかつてあたしが挑んでいたころの比じゃないだろう。あたしはただでさえ狭き門を、この人数をかき分けてくぐり抜けなきゃいけないんだ。  自分の番号が貼られた机を探し、席に着いた。続々と入室してくる、あたしのライバルたち。皆、真剣な顔をしている。 縁結び一級の試験は、まずは筆記、そして論文、最後に実技と、一日で三つをこなす厳しいものだ。  持ち物に問題がないのを確認し、開始時間を待ちながら、縁結びの神に就いた自分の姿を想像して紅に染めた爪を見つめる。なりたい自分を見える形にすることで望みを引き寄せることができる――そんなおまじないみたいなものだったけれど、その鮮やかさはあたしに勇気と力をくれた。  祈るように指を組み合わせ、頭の中でひたすらに語句をそらんじていると、隣に女の子が座った。  長い黒髪をうなじの後ろで結んでいる。ひっつめ過ぎて眉も目もちょっと吊り上がって見える。でも、とてもきれいな子だ。目が合ったので会釈すると、彼女はあたしをまじまじと見つめた。  初対面にしては失礼なほどの凝視に、あたしは思わず身体を引いた。知り合いだったかな? 見覚えはないんだけど。 「あの……?」  あたしが探るように愛想笑いを浮かべると、彼女は一瞬だけ眉根をひそめるようにした。 「なんでもありません」  すぐに表情を繕って、さっさと前を向いてしまう。  なんでもなくないよね、今の。  むっとしたけれど、こんなことで気持ちを乱されるわけにはいかない。集中、集中だ。わけわかんないのは無視に限る。  胸に手を当て、大きく呼吸をした。  これを乗り越えたら、あたしはようやく縁結びの神だ。  ささくれた指先を握るあたしの前に、いよいよ問題用紙と解答用紙が配られる。 「それでは、はじめてください」  試験監督の静かな声が響いた。
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