神の資格は、相思である

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 試験はつつがなく終わり、七日後、結果発表の日がやってきた。  試験前、連日の徹夜で荒れた肌もずいぶんとツヤツヤ感を取り戻してきたし、ささくれの治った指先もきっちりと紅色だ。  今はおまじないのような想いだけじゃなく、もちろん、自信だってあった。  筆記に関しては、自己採点でもじゅうぶん合格ラインを突破していた。論文も実技も、思った以上によくできたと自負している。受かっていると思う。もちろん根拠なんて無いのだけれど、合格者の貼りだされる【神管理局】へ向かうあたしの足は、とっても軽やかだった。  発表時間の二十分前に到着したのに、管理局はたくさんのひとでごった返していた。今日は縁結びだけじゃなくて学業一級と二級の結果発表が重なっているらしく、混雑に拍車がかかっているみたいだ。  管理局正門前に、大きな掲示板が設置されている。まだ何も貼られていないけれど、皆その前に集まり、発表の時を待っている。  やがて、詰襟の制服をまとった管理官が現れた。手には筒。あの中に合格者の番号が書かれた紙が入っている。何を言われなくても道を空けるひとたちの間をゆっくりと歩み、管理官は掲示板の中央に紙を貼りつけた。  とても小さな紙だった。嘘だろ、まさか、と驚きの声があちこちから上がる。あの小さな紙でじゅうぶん――それだけ合格者が少ないということだ。自信が不安に押されて、ドキンと胸が打つ。それでもあたしは平静を保ったまま、我先にと紙に殺到する他の面々が落ちつくのを見はからって、悠々と近づいていった。  かじりつくように貼り紙を見ていた子が、勢いよく振り返った。くしゃくしゃに歪んだ顔。あたしは思わず脇を向いて、やり過ごす。駆け足に去る足音と同じ速度で、あたしの心臓が鼓動を刻んでいる。  いつの間にか、不安と自信の立場が逆転していた。  それでも見なきゃ。確かめなきゃ。  そっと顔を元の位置に戻す。そして見上げた。  まばらな番号を目で追う。  ゆっくり、ひとつひとつ。  無い。その次も、そのまた次も。 「……うそ」  ひょっとして見落としたのかな。薄い望みにすがりながら、何度も何度も、最初から最後まで数字を確かめた。そのどこにもあたしの受験番号はなかった。  誰かに肩を押されて、あたしはふらりと貼り紙の前から立ち去った。顕札発行の手続きをしてもらうための列を横目に、番書を丸めて、くず入れに放りこんだ。  落ちたのはあたしだけじゃない。受かったひとの何倍ものひとが落ちているのだ。なのに、きらきらと笑い、はしゃぐ顔ばかりが目に入ってくるのはどうしてだろう。  なるべく周りを見ないように、うつむきがちに歩いていると、目の前に誰かが立った。  顔を上げると、筆記試験のとき隣にいた、あのひっつめ髪の女の子がいた。
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