神の資格は、相思である

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「こんにちは」  あたしが返すよりも先に、彼女はさらに続けた。 「結果はどうでした?」  あたしの顔色を見たらわかるだろうに、あえて訊いているようだった。答えられないでいると、 「わたしは合格でした」  ひとかけらの優越感もなく、彼女の言い方は当然のような雰囲気をまとっていた。 「それは……おめでとう」  笑顔を作りたいのに、なかなかうまくいかなくて口元がひくついた。なんとか口角を上げて、へたくそに笑ってみせると、彼女はこの前みたいにまたあたしをじっと見つめた。 「実技って、自分がその神になったことを想定して挑むのが礼儀だと思うんです」 「え?」  いったい何が言いたいのだろう。あたしが反応できずにいると、彼女は一筋のほつれ毛も許さぬようなひっつめ髪をそっと手で押さえ、 「御髪も整えず、目の下に隈を作って試験に挑むような方に負けるわけにはいけませんので」  あたしは思わず頬に手を当てた。手のひらに汗がにじむ。試験直前はかなり睡眠時間も削って、身の回りに気を遣う余裕はあまりなかった。とはいえ、人前に出てもおかしくないくらいには取り繕ってあったと思うのだけど、そんなにひどい顔をしていたのだろうか。  彼女の表情は見事なまでに落ちついていて、声も平坦だ。けっして嫌味を言っているわけではない様子が、あたしに「失礼だ」とも「関係ない」とも言わせない圧力を感じさせていた。  彼女の視線があたしの顔から逸れて、胸の顕札で止まった。 「あなた、家内安全の神なんですね」  その声に深い納得の響きがあって、あたしは思わず彼女をねめつけた。 「それが、なに」 「長く浸かり過ぎたんじゃないですか」 「どういう意味よ」  あたしの問いよりも早く、彼女はきびすを返した。 「ちょっとあなた」  一歩踏み出しかけ、思いとどまる。  顕札発行の列の最後尾に並ぶ彼女の背は、もう、あたしには触れられない場所にあった。
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