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あたしはうつむいたまま、来たときの何倍もの時間を使って、とろとろと自分の社に帰った。たどり着いてしまえば、この現実がゆるぎないものになってしまう、そんな気がしていた。
バカみたいだ。とっくに結果は出て、あたしが何をやってもそれは覆らないのに。
あたしは落ちたんだ。
社に戻ったとたん、足から力が抜けて、ぺたんと座りこんだ。
「……ううー」
泣いてるつもりなのに、涙はちっとも出ない。変につぶれた声だけが部屋の中に響く。悔しいけど、誰も責められないことだ。ぜんぶあたしのせい。落ちたのはあたしの努力不足だ。
家内安全の顕札が胸の前でふらふら揺れる。南天の実の図柄を彫りこんだ、地味な、ぜんぜんかわいくない、あたしが神である証。
――長く浸かり過ぎたんじゃないですか――
名前も知らない彼女の声が、顕札から聞こえてくるようだった。
「なによ!」
あたしは顕札を首からむしるようにはずして、部屋の隅に思いきり放り投げた。続いて、教本や小物入れやら、目につくもの手にふれるもの、手当たり次第に投げ散らかす。
そのまま虫みたいに背を丸めて、床に伏せた。
じっとしているうちに夕ぐれの時間になり、月が出て、それでも尚鋭はやってこなかった。
便りが無いのは悪い便り――ほんと、よくわかってる。
こういうとき、どうするのがあたしにとっても自分にとっても最善か、尚鋭はよく知っている。その気遣いというか、察しの良さが、今日はたまらなくあたしを苛々させた。
徹夜なんてもうしなくていいのに、一睡もできなかった。
むくんだまぶたと重い頭を押さえながら、冬の早朝のたおやかな日差しを浴びる。それすら、しなびた心には夏の日差しよりきつい。
綿入れを羽織って、のろのろと手水舎までゆくと、手水鉢の付喪神がそろりと陰から顔を出した。彼はあたしがやってくるずっと前からこの神社にいる、一番の古参だ。
「彩さま、おはようございます」
「おはよう」
「おや、お顔の色がすぐれませんな」
きっと、昨日のあたしの荒れっぷりは、ここまでは聞こえなかったのだろう。あたしが縁結び一級の試験を受けたことは、彼らには伝えていない。そのうち誰かの口から耳にするかもしれないけれど、落ちた今となってはどうでもいいことだ。
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