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気がつくと、ミゲルは一人ソファでミッチェを抱きしめて寝ていた。
まぶしい日の光が部屋を照らす。
窓を覗くと、すっかり空は晴れて穏やかな朝を迎えていた。
昨日の出来事は、夢を見ていたのだろうか。
マリーはいつの間にか家を出ていったようだった。
暖炉の傍にかけていた、マリーのコートがなくなっている。
本当に夢だったのかもしれない。
でも、マリーに撫でられていた感覚は、紛れもない温かさがあった。
ミゲルはぼーっとした頭で思い起こしていると、家のドアが勢いよく開いた。
「ミゲル!一人にしてごめんよ、いい子にお留守番できていたかな」
父親が帰ってきた。
ミゲルはうれしさで胸がいっぱいになり、父親に抱きついた。
「お父さん!ぼく、一人じゃなかったから全然平気だったよ!」
「おや。そうか、ミッチェも一緒だよな」
「うん、でもミッチェだけじゃなくて、昨日はマリーも一緒だったんだよ」
「マリー?」
「うん。マリーが一緒にいてくれて、いい子って撫でてくれて、それから…」
ミゲルははっと思い出す。
眠りに落ちる前、マリーはこう囁いていたのだ。
「安心してください。この嵐は直に止みますからね」
父親も同時に思い出していた。
あの嵐の中、町はずれの小高い丘の上で、天に向かって祈りを捧げる白いローブを着た少女がいたのだ。
少女を助けようと父親は駆け寄ろうとしたが、強い風にあおられて一瞬目を瞑ったあとには、少女の姿は消えていた。
それから風は急速に収まっていった。
それから後日聞いた話なのだが、実はあの日、グレゴリアス教の司祭一団が巡礼のためこの地域を訪れていたとのことだったが、嵐に巻き込まれて消息を絶っていたとのことだった。
今でも捜索が続いているが、一人も見つかっていない。
ミゲルは、今も信じている。
どんなに恐ろしく、悲しいく、辛い中でも、人は強く生きていける。
それは紛れもない真実なのだ。
命の灯火は、簡単には消えない。
マリーもきっとどこかで、そう信じているはずだ、と。
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