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泣き止まないミゲルに、マリーは優しく語りかける。
「ミゲル。よく耳をすましてご覧なさい。
風の止み間に、虫の音が聞こえるでしょう」
ミゲルは耳をそばだてると、秋の音を鳴らす虫の声が、かすかに聞こえた。
「どんなに恐ろしく、悲しく、辛い中でも、生き物は力強く生きることができるのです。小さな虫でも、私たち人間でもそれは同じです。
命の灯火は、私たちが思っているよりもずっと強いのですよ。
明けない夜がないように、止まない嵐はありません。
明日は必ず、お天道様が微笑んでくださいます。
ミゲルは強い子。お父様も、ミゲルが立派に家を守っていることと、安心していますよ」
マリーの声色は穏やかな凪のような心地良さがあった。
眠れない夜に母が、昔話をよく自分に聞かせてくれていたことを思い出した。
母の声を聞いていると、自然とまどろみに落ちてしまったものだった。
その時の感覚に似ていた。
「…マリーは、お母さん、かな、お姉ちゃん、なのかな…」
マリーが何事か囁いていたが、ミゲルは急激な強い眠気に襲われ、そのまま深遠の世界に落ちていった。
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