住所が書けない

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住所が書けない

 まつぼっくり町のヒンヤリ池に住んでいる両親に手紙を書いたのだけど、住所が書けなくって困ってる。いつもなら近くに住んでいたチンパンジーの田中さんに代筆を頼んで住所を書いてもらっていたんだけど、彼は先日隣町に引っ越してしまったのだ。俺が飛べたら直接届けにいけたのだけど、アヒルの羽じゃあそれも無理な話だろう。  助け舟を出してくれたのは、アメンボの藤木君だった。彼は俺の同級生である。 「もしかしたらカエルの鈴木さんなら書けるかもしれない。ほら、彼は指があるじゃないか。器用に書けるに違いないよ」 「なるほど、確かに彼なら文字が書けるかもしれない」  そういうわけで、俺は金色町の極楽池に住んでいる鈴木さんを訪ねた。彼は確か公務員という話だけど、アフターファイブと休日に歌手活動をしていると聞いたことがある。最近知名度が上がっているようで、かなりファンがついているらしいけど、本当のところは知らない。俺はあまり音楽を聴かないから。  俺は鈴木宅を訪ね、事情を説明した。ハガキとペンを口にくわえた俺を見るなり、彼は長い舌をぺろりと口から出して、くるくるっと器用にペンに巻き付けた。そして慣れた様子でさらさらと住所を書いた。指は使わないんだ、と俺は思った。かくして鈴木さんの手によって住所が記載された手紙を、俺はその日のうちにポストへと投函した。  後日、藤木君が俺にこう尋ねた。 「そういえば何を送ったんだい。文字が書けないのに手紙だなんて」 「足跡だよ。結局俺たちアヒルは文字を書けないからさ。手紙に足跡をつけて定期的に送ることになっているんだ。うちの両親はそれで俺の安否を確認して、仕送りをしてくれることになっている」 「なるほどねぇ」  藤木君は感心したようにうなずいた。その一件以来、鈴木さんともとても仲が良い。
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