1. 現世の私

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1. 現世の私

いつものように着慣れた制服に袖を通し、身なりを整える。屋根裏に位置するこの部屋は天井が低く、背を伸ばして立つことは出来ない。何も敷かれていない硬い床。膝立ちになっていた足が、いつものように少し痛かった。 中身の少ないスクールバッグを持って階段を降りる。降りきる前に聞こえてきた、リビングからの"家族"の楽しそうな笑い声に、思わず立ち止まる。 けれどそれは一瞬で、すぐにまた階段を降りる。そして降りきったところで振り返り、廊下の先にあるリビングへの扉を見つめた。 今、この扉の先にいる"家族"は、幸せな朝食を共に過ごして居るのだろう。 私はその扉の先に行くことなく、ただ黙って家から出た。外に出ると、朝にも関わらず日差しが思ったよりも暑くて、室内へ引き返したくなる。 けれど、その室内も私にとっては居心地のいい場所とは言えなくて。 そう思ってしまえば、やはり向かう場所は学校しかない。渋る心に蓋をして、足を踏み出した。 高校2年の夏。 無情な日々が確実に私を追い詰めていく。
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