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目を覚ますともう既に日は傾いていて、窓の向こうにはちらほらと帰宅して行く生徒の姿が見えた。
こんなに穏やかに寝られたのはいつぶりだろうか。それに、なんだか誰かに話しかけられたような気がする。
まだぼーっとする頭で考えるがよくわからなかった。夢か現実なのか定かではない。
起き上がるとふと、自分に掛け布団が掛かっているのを知った。それは棚に積んであった薄い掛け布団だった。
あの時、私は掛け布団も取らずそのまま寝てしまった。やはり、誰か来たのだろうか。
あの優しい、保険医だろうか。
ベッドから降りようと枕元に手をつくと、カサリと音を立てて手に紙のようなものが触れた。
紙切れのような小さなそれを手に取ると、何やら文字が書かれていて。
『お大事に』
たった一言、何処か男らしい綺麗な字でそう書かれていた。
見覚えないその字体。心辺りはない。
けれどこの紙を置いていった人物が掛け布団をかけてくれた事だけはわかった。
その人物が誰なのか、想像もできないけれど私はそのメモを大切にスカートのポケットへと入れた。
こんな些細な優しさが、今の私にとってはとても嬉しかったのだ。
捻った足首はまだ少し痛かったけれど、朝よりは幾分かましになっていて。そのことも少し嬉しくて。私は僅かに笑みを浮かべた。
浮かれていたのかもしれない。
だから、油断していた。あの子の事。
あの子の、周りの人達の存在を。
油断、していた。
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