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校舎にはもう生徒の姿はほとんどなくなっていた。静かな廊下には、私の足音だけが響く。夏の夕日が窓から差し込み、廊下を染め上げていく。
そうして私は、昇降口までゆっくりと歩いた。
昇降口に辿り着くと鍵の掛かった下駄箱から靴を取り出す。足首はやはり、また痛み出していた。そんな足を気遣いつつ靴を履いていく。
「瑛茉っ」
靴を履き終え一歩を踏み出そうとした瞬間、そう声をかけられた。
振り返った先には、予想した通り玲莱がいた。
「大丈夫?体調悪かったの?今日一日中、授業出てなかったって聞いて……」
眉を下げて心配そうにそう尋ねる玲莱に、私は何を思えばいいのだろうか。
どうすれば良かったのかなんて、このときの私にはとてもじゃないけど分からなかった。
黙ったまま玲莱から目を逸らした私に、玲莱はまだ声をかける。
「瑛茉?だいじょ──」
「っ……」
手を伸ばしてきた玲莱に対して、私は反射的に避けてしまった。そんな私に対して玲莱は一瞬睨みつけた。
「……ごめん」
さっきの睨みとは打って変わって、瞳を潤ませあからさまに傷付いた表情で謝る玲莱。
傍から見たらまるでこちらが悪者かのようだった。
実際、そうなのかもしれない。こんなに周りから信頼されて人望があって、可愛くて、優しい玲莱。それに対して私は、冷たくて嫌われ者で、人望もない。玲莱に取り憑く悪魔のような存在なのかもしれない。
悪いのは全部、私の方なのかもしれない。
「……仲直りしようよ。また、前みたいに私は瑛茉と仲良くしたいっ!」
玲莱の突然の言葉に思わず伏せていた視線を玲莱へと戻す。未だに少し潤んだ真剣な瞳で玲莱は私を真っ直ぐ見つめていた。
「……戻れるなら、私だって戻りたい」
気付けば私は玲莱に対してそんな言葉を洩らしていた。玲莱は驚いたように一瞬目を見開く。そしてすぐに嬉しそうに笑った。
「瑛茉!!」
駆け寄って私を抱き締めた玲莱を今度は避けることなく受け止める。強く強く私を抱き締める玲莱を、同様に抱き締めようと手を伸ばした瞬間。
玲莱は私の耳元で囁いた。
「なーんてね」
頭が真っ白になった。
嘲笑うように玲莱は言葉を続ける。
クスクスと笑う玲莱が、私にとってはまるで悪魔のようで。
「大嫌いだよ、お前なんか」
冷たい声が、脳内に反響する。固まったまま動かない私に玲莱は構わず話すのをやめない。
「死ねよ」
その言葉一つが、私にとってとても恐ろしかった。
「きゃあ!!っ」
ドンッと鈍い音とともに玲莱は尻もちをつく。
私は反射的に強く私を抱き締めていた玲莱をめいいっぱい突き飛ばしていた。
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