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静けさが、辺りを包む。
一体どれだけの時間が経ったのだろうか。あの男子生徒達が立ち去って行って、どれくらいの時間が。
外はもう暗かった。夏の暑さも、夜になってしまえばそれ程でもない。熱帯夜はまだまだ先のようだった。
痛いのも苦しいのも、何が原因で辛いのかも。
説明ができないほど身も心もぐちゃぐちゃだった。
冷たいアスファルトが熱を持った体を冷やしていく。天井を見上げたままずっと動けないでいた。
……ここ、工場だったんだ。
視線だけで辺りを見渡せば、そんなどうでもいい事に今更気付く。すっかり廃れてしまっているこの場所はどうやら工場だった場所のようだ。
人気のなくなった閑散とするこの場所はまるで、私の中を投影しているようで。
ゆっくりと起き上がる。
頭はまだズキズキと痛むけれど額の血はどうやら乾いて固まっているようで、あのベットリとした感触はしなかった。
自分の体を見る勇気はなかった。手は震えていて。それに気付いてしまえば、全身が震えていることにも気付いてしまった。思わず自分自身を強く抱き締める。強く噛み締めた唇から血の滲む味がした。
視界の端で、何かが一瞬光を反射する。
反射的に顔を上げると目に入ったのはガラスの破片のようなもの。
導かれるようにゆっくりと立ち上がりそれを手に取った。手に取って見てもやはりそれはガラス片で。透明だった筈のそれは色んなものに傷つけられたのか少しくすんでしまっていた。
そのガラス片を片手に、痛む足を引きずりながら廃工場から出て行く。出た先はまるで見慣れない、手入れのされていない草むらのような場所。廃工場を出て僅か数歩で立ち止まる。
何故だか面白くとも何ともない筈なのに、自然と笑みが溢れていた。
ゆっくりと上を向いた。目の前に広がる夜空は何処までも遠く、広く感じて。
頬に一筋。
乾いていた筈の涙が流れた。
その星空は残酷な程、今まで見たどの星々よりも綺麗な輝きで私を見下ろしていた。
「っ……!」
右手の鋭い痛みに今更気付く。思わずガラス片を手放してしまった。いつの間にか、強く握り締めてしまっていたようで手のひらからぽたぽたと血液が落ちていった。
ただじっと、落ちていく血液と落ちて血に濡れたガラス片を見つめた。
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