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姿見に映る自分を見つめる。
シンシアのおかげで綺麗に着飾った自分の姿は、やはり"瑛茉"ではなくて。
辺りを少し見渡しても、あの屋根裏部屋とは似ても似つかないくらい広く、そしてどの家具や装飾品を見ても一目でそれがとても高価な物だとわかる。
もう一度、鏡に映る自分を見つめる。懐かしい前世の自分。鏡に映る自分に触れるように手をつける。そして、額を合わせ目を瞑る。
誓おう。あの悲劇は絶対に繰り返さないと。
何よりも、私自身に。
目をそっと開けると、胸元でキラリと何かが光る。それはあの時青年がくれたペンダント。
とても小さいその鳥籠の中の砂時計は光を受けてはキラキラと輝く。淡く優しいその色はあの青年の瞳を思い出させた。
凄く、綺麗。
そこでふと、気付く。
私をここへ導いてくれた青年と、今目の前の鏡に映る自分。
性別だって、身長だって違う。それなのに、私と青年の容姿が何故だか凄く被って見えた。
唯一の違いは、私の深いバイオレットの瞳。その瞳は母親譲りの色彩だ。
「エマ様、そういえばそのペンダントとても素敵ですね」
色々なことに思考を巡らせているとシンシアがそんな事を言った。
「……これは、お守り」
ペンダントを見つめながら薄っすらと笑って言った私に、シンシアはその柔らかい笑みを深めた。
「よく、お似合いですよ」
シンシアのその言葉に私は嬉しくて笑った。
「さぁ、陛下がお待ちです。そろそろ向かわなくてはなりませんよ」
シンシアの言葉に頷く。
「そうね、行きましょう」
そうして一瞬鏡に映る自分を見る。
濃淡の豊かなグラデーションブルーのシンプルなデザインのシフォンドレス。シンシアによってセットされた真っ白なストレートのロングヘアーは緩く下の方だけウェーブしている。
髪に飾られたドレスと同様のデザインのシンプルなヘッドドレスがキラキラと輝いていた。
この姿は、あの日の一度きり。
確信はないけれどきっと今日この日が、私の人生の起点になったあの日なのだと感じた。
それに気付いてしまうと、朝食へと向かい出していた足取りは少し重く感じた。
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