2.前世の私

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私の足音と、私の少し後ろを歩くシンシアの足音が、城の廊下に響く。 窓の外には清々しいような朝の風景が広がっていた。あの日もやはり、こんな静かな朝だった。 扉の前に辿り着く。深く深呼吸をした。 シンシアと目を合わせ互いに頷く。シンシアが開けてくれた扉の先に見えたのはやはり、前世の私の家族だった。 私の父であるアスタリアの国王、ウィリアム・アイズ・アストラ。父は私の存在に気付きながらも室内へ入った私に、目も向けなかった。 そんな私を心配そうに見つめるのは、この場にいる数人の執事やメイド、シンシアに加え腹違いの第一王女、アナスタシア・アストラだった。 長テーブルの中央に位置する席に座る父から右側、一席空けて座るアナスタシア。私はその父の左側、アナスタシアの目の前に座る。その際も、アナスタシアが私を見ているのがわかっていたが目を合わせることはしなかった。 いつでも優しいアナスタシアは、きっと私のこの状況を憂いている。事実を知らないまでも、私を疑うことなく信じてくれているのだ。 ……アナ、ありがとう。 口には出せない感謝を、心の中で呟く。 そして同時に、アナスタシアを巻き込んでしまったことに罪悪感を感じる。 アナスタシアが今座る席は、本来ならば私の腹違い、つまりアナスタシアの実の弟である第一王子ハルティア・アストラが座る筈の場所だったからだ。 ハルティアが不慮の事故でいつ目覚めるかわからない眠りについてしまった今、アナスタシアが王位継承権第一位になった。 アナはそれを、望んでなどいないのに。 出来ることなら、ハルティアの"あの事故"が起こる前に戻りたかった。そうすればきっと、きっと。 ……いや、この場所に戻ってこれた。普通はありえないことな筈だ。それだけで感謝するべきだ。多くを望んではいけない。 きっと今からでも、ハルやアナを助けることが出来る筈。
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