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容赦のない生徒達の視線が私を射抜く。
擦りむいた腕も、視線も、心も、全てがヒリヒリと痛む。
けれど、足はもう震えていない。足早に保健室へ向かった。遠くで授業開始のチャイムが鳴る。
さっきの余韻のせいなのか、やけに保健室までが遠く感じた。やっとの思いで保健室の扉を開ける。すると柔らかい笑顔でまだ若い女性の保険医が迎えてくれた。
「江藤さん、今日はどうしたの?」
優しく手招きしながらそう問いかける保険医に、私は促されるまま目の前の椅子に腰掛けた。
「転んで腕を、擦りむいてしまって……」
そう言って右腕を保険医に見せると、保険医は僅かに目を見開いた。
「結構派手に転んだのね、擦り傷は消毒液じゃなくて水で一旦洗い流しましょう」
優しくそう言った保険医は、他に怪我はない?と言った。
「他は大丈夫です」
「そう、後から来る痛みもあるかもしれないからその時は一旦保健室に来るか、病院に行きなさいね」
柔らかく笑う保険医は、ちょっと染みるかもよーなんて言いながら水道の蛇口をひねる。
水の冷たさに思わずビクリとするが、それは一瞬だった。対して染みもしなかったその傷は、ここに来る前の方が痛かった気がする。
「はい、これで大丈夫」
包帯を巻き終えた保険医はそう言って私を見た。
「私、これから職員会議があるんだけど、どうする?ベッド余ってるから休んでいく?」
私が教室に行きたくないのを何となく察して居るのだろう。この保険医はいつも優しい。
私が答えないままでいると、保険医は立ち上がり準備を始める。それを私は何も言えずに見ていた。
「もう行かなきゃならないけど、気にしないでね。休んでいってもいいし、自由にしてていいからね」
優しくそう言った保険医は、静かに扉を閉めて出ていった。
保険医が出ていった扉を暫くの間見つめていた。いつも優しく接してくれるあの保険医にも、私は何も言えずにいた。
言えるわけがないんだ。私の言葉なんて信じてくれる筈がない。勿論、私のことを疑ったり不信に思ったりしない事も知ってる。けれどそれ以上に、あの子は信頼されている。
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