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あれからアナ達の姿も見えなくなり、名残惜しい気持ちのまま座り直した私に、シンシアが声をかける。
少し困ったようにして微笑んだシンシアに何だか気恥ずかしい気持ちになる。ほんのり頬が赤くなった気がして咄嗟に左手で頬を触った。
そんな私を見てシンシアはまた更に微笑んだ。
「これから王都に隣接するグランドゲートを通ります。このまま扉を通れるよう手配しておきましたのでエマ様はゆっくりなさって下さいね」
「ありがとう」
シンシアの言葉にお礼を言って窓の外を眺める。移り変わる景色は徐々に王都に近づいて行く。活気づく街並みはもう目に写る距離にあった。そこに大きくそびえ立つなんともきらびやかな装飾の扉。
"グランドゲート"
それは互いに親交のある国同士を繋ぐ大きな扉。その扉を通ってしまえば行きたい国にすぐ行ける。通常は手続きも当日の通行確認も大変なのだけれど、事前にシンシアが報告してくれたおかげで私は何もしなくていいみたい。
当日の通行確認も、王家の紋章があるこの馬車のおかげで免除になっているのだろう。
ありがたい事だ。感謝しなくては。
一度目の前世を合わせても、このグランドゲートを通るのはこれで二回目だ。あの時はこの扉を初めて通って以来、国から出ることは一度もないまま死んでしまった。
思わずアナから貰ったブローチを触る。馬車に乗り込んでから、小さいトランクケースの上に置いていたそれを再び手に取った。
あの時の思いはもう二度とごめんだ。
大切な人を失うのは、もう嫌だ。
ブローチに魔力を包むように流し込む。僅かに光ったそれを胸元に付けた。さっきまでついていたシルバーのブローチとは違って、アナのゴールドのブローチが私の胸元で輝く。
今頃、アナの胸元にも私のブローチがつけられているだろう。見てもいないけれど、そう確信があった。
私の胸元で輝く"二つ"のお守りが、私の心を強くさせた。
グランドゲートはもうすぐ目の前だ。
ここを通れば、本当にもう後戻りできない。
脳裏を掠める前世の日々を振り払うかのように、私は目の前の扉を真っ直ぐに見つめた。
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