2.前世の私

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洗練された身なりで私達を出迎えるのは門番の二人。第二級騎士であるその二人は、一度目の前世でもよく関わりのあった二人だった。特段親しかった訳ではなかったけれどよく見知った顔は懐かしさを増長させる。 「お初にお目にかかり光栄に存じます。エマ様、《第二級騎士》キース・クロスと申します」 馬車の扉を開け、そう言って皇国式のお辞儀をするキース。金色の短髪が光を反射して輝く。そんなキースの横にやってきたさっきまで御者と話していた騎士の装いの男。ふわりと茶髪を揺らせながらキースと同様にお辞儀をした。 「お初にお目にかかり光栄に存じます。エマ様、《第二級騎士》フラン・シルクと申します」 暖かさと優しさを感じる二人の声色に胸の奥がじんわりと暖かくなる。馬車を降りて二人に向かい軽くお辞儀をした。 「ご挨拶ありがとう。顔を上げてキース、フラン。私はエマ・ベアトリーチェ・トランジスタです。どうぞよろしく」 二人の目を見てそう微笑んだ私に二人の表情はふわりと和らぎ嬉しそうに笑った。 一度目の人生では、この時トランジスタと名乗ることはしなかった。あの時の二人の表情は今でも鮮明に思い出せる。一線を引かれたと思わせてしまった。それは後に後悔の一つになる。 二度目の今なら、迷い無く自身をトランジスタと名乗ることができる。ここで過ごした記憶があり、ここの人達の暖かさと優しさを知っているから。 「お待ちしておりました。エマ様」 門が開かれると同時に声がした方へ目を向ければ、執事の装いの男。艷やかな黒髪が風に靡く。その男の肩には半透明の青い小鳥。 その男が肩の小鳥に合図を送ると小鳥はフランのもとへ飛んでいく。フランはそれを見て自身の左手首を上げた。そこには魔法石がついたブレスレットがつけられており、太陽光を浴びて輝く。小鳥はその上へと留まった。すると柔らかい光を放ち瞬く間に小鳥は姿を消す。 それはこのラディア皇国では珍しくない、日常的に使われる魔法で出来たメッセンジャーバード。伝書鳩のようなものだ。 懐かしい青い鳥に思わず笑みが漏れる。 「お初にお目にかかり光栄に存じます。《執事長》シルフ・ラドラーグと申します」 物腰柔らかにそう言ったシルフに再度目を向ける。こちらもお辞儀を返し、先程と同様に挨拶を交わす。トランジスタと名乗った私にシルフは優しげに笑みを返し、屋敷へと案内した。
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