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洗練された屋敷内はどれも思わず目を奪われるほどの芸術的な装飾が施されていた。玄関ホールがキラキラと上品に輝いて見える。細かい所まで気を配り作り上げた職人の腕が余程良いのだと感じた。気品さえ感じるその光景に懐かしさを感じて思わず視界が潤んだ。
「旦那様方が書斎でお待ちですのでまずはそちらにご案内致します」
シルフはそう私に声をかけると軽くお辞儀をして微笑んだ。促されるままにシルフの後をついて歩く。バクバクと緊張で心臓は震えていた。
「シルフ・ラドラーグです。旦那様、お嬢様をお連れ致しました」
シルフは書斎の扉をノックするとそう扉の向こうに声を掛ける。すると開いた扉の向こうに一人の男性が顔を見せる。執事服を着たその男は私を目にすると品の良い笑みを浮かべてお辞儀をした。
「入りなさい」
低く、穏やかな声色が空気を震わせ私を室内へと導く。その声の主は記憶に違わず強く優しい眼差しで私を見つめていた。ソファに座りテーブルを囲んでいるその人達は私を視界に入れると立ち上がり優しい笑みを浮かべる。
「ようこそ、エマ」
トランジスタ公爵──ジーク・トランジスタはそう言って私へ歩み寄り手を取ると新たな家族の元へとエスコートをする。懐かしい人達の姿をまたこうして見られることに心が震える。それに比例するように公爵の手をとった私の手は少し震えていた。
「エマ・ベアトリーチェ・トランジスタ。この度新たな祝福を得られることができ光栄でございます」
礼節に乗っ取り深くお辞儀をすると公爵夫人の柔らかい声色が聞こえた。その声はとても暖かく、夫人の人柄をよく表しているようだ。
「此度は祝福を授かることができ身に余る光栄にございます」
夫人が深くお辞儀をするとそれに倣い公爵とその息子も礼節に乗っ取り深くお辞儀をした。顔を上げた夫人は浮かべていた笑みを更に深め嬉しそうに笑う。
「ようこそトランジスタへ、エマ」
「姉様、よろしくお願い致します!僕はセシルです」
夫人の後に続き元気よくそう言ったトランジスタ公爵家の次男──セシル・トランジスタは夫人とよく似た碧眼をキラキラと輝かせこちらを見つめていた。そんな彼と私を微笑ましく見る公爵夫妻。
「よろしく、セシル」
私の返事を聞くと三人は更に嬉しそうな笑みを浮かべて私をソファに座るように促した。
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