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Episode.1 話し声
ぐっすりと寝ていた意識は、誰かの話し声によって浮上した。思わず寝返りをうって眉間に皺を寄せる。
まだ眠たい意識の中、聞こえてくる話し声に耳を傾ける。いつもの保険医の声と、見知らぬ女生徒らしき人の声。
どうやら保険医はこれから職員会議に行くらしい。女生徒に休んでいくかどうかを聞いていたが答える様子はないようだった。
ここでやっと目を開ける。眠気は完全に覚めていた。窓際にあるこのベッドはカーテンを閉めていても日差しの強さを感じる。
少し、暑い。
暑さに眉をひそめてそんな事を考えていると、保険医が扉を閉めていく音を聞いた。
思わず音の方を見ると、カーテンが僅かに開いていて、扉を見つめる女生徒の姿が見えた。
何を思っているのか定かではなかったけれど、ただじっと女生徒はその扉を見ていた。顔がこちらから逸らされていて、彼女がどんな表情をしているのかは定かではなかった。
するとふと、女生徒の横顔が見える。彼女は自分の右腕を見ていた。包帯が巻かれたその腕は、彼女を痛々しく見せていた。
目を伏せた彼女の横顔は、どこか暗くて何故だか胸が締め付けられる感覚がした。
ただじっと、彼女から目が離せないでいた。
それから彼女はふらりと立ち上がり、こちらに気付くことなく保健室から出ていく。
扉を閉める音が、やけに寂しく部屋に響いた。
Episode.1 話し声
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