1. 現世の私 (続き)

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玲莱じゃなくてよかった。それは裏を返せば、私でよかったってこと。 もう、9年もこんな生活を続けていれば流石に慣れてしまった。世間体を気にしてなのか、昔から他人がいる時だけは"普通"の家族を演じる。 それは私の両親が生きているときも一緒だった。 私の母の妹であるおばさんは、何故か昔から母の事を嫌っていたらしい。けれど、それは二人っきりのときだけで。他人からは仲のいい姉妹だと言われていた。母は、あまりおばさんに会いたがらなかった。 私自身、母が生きていた頃はおばさんとの関係も良好だと思っていたし、何より玲莱との仲も良かった。 けれどそれは紛い物で。私はそれに気付けなかった。 気付きたくなんてなかった。その方が幸せだったのに。 あの日、私は全てを失って。 まだ8歳だった私を、おばさんは引き取った。 体裁を考えてなのか、それともまた別の理由なのかはわからないけれど。 それでも、あの日から私の地獄は始まって。 今も尚、進行形で続いている。 私を無視したままリビングに戻るおばさん達。 玲莱はまだその場に残っていた。 そして未だに座り込む私を無表情で見下ろしていた。辺りに静けさが広がる。 捻った足首が痛い。 玲莱は無言で私の前を通り過ぎようとした。 けれど、一瞬立ち止まり私の捻った足首を力いっぱい踏みつけた。 「っ──!!」 思わぬ強烈な痛みに声も出なかった。 涙が滲む。思わず足を抱え込んだ。 玲莱はそんな私に構うことなくリビングへ消えていった。 滲んだ涙が抑えきれなくて溢れ出る。 一体、私が何をしたんだ。 どうしてこんな、こんな目に合わなきゃならない? 教えてよ、誰でもいいから。 助けて。もう何処もかしこも痛くて仕方ない。 私は、グッと捻っていない方の足に力を入れた。涙はまだ止まらなかったけれど、この場にいればまた、玲莱達に会ってしまう。 それだけは絶対に、避けたかった。 痛くて痛くて、片足にしか体重はかけられなくて。いつもよりも歩みは遅かったけれど、必死に私は行きたくもない学校へと向かった。 そんな自分が、とても滑稽に思えた。
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