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「おっ、ケイスケじゃん。久しぶり! お前全然変わってないなぁ」
僕が会場で久我さんを探してキョロキョロしていると、前から背の高い金髪の男が片腕を振りながらこちらへやって来た。
「ん? あー、久しぶり。えーっと……」
言葉が続かない。だれだったっけ?
「ケントだよ。カトウケント。そんなボーッとして。俺のことを忘れたのか? まったく。」
ケントと名乗る男は嬉しいような困ったような顔をして、オーバーにリアクションをとってみせた。
ケントって……あのガキ大将のケントか。たしか昔は坊主の野球少年だったような。そんなことより今は久我さんを探さなければならない。
「なんだぁケントか。お前が変わりすぎなんだよ。そんなことより久我さんをみなかったか?」
「久我さん? 誰だそれ、そんなヤツいたか? てか、そんなことよりってお前、久々に会った親友に対して開口一番にソレかよ。ひでぇヤツだなぁ」
ケントは呆れた様子で話を続けようとするが、今は無駄話に付き合っている暇はない。
「ほら、あの無口で髪を腰ぐらいまで伸ばした女の子だよ。六年生の時に同じクラスだった」
「んっ! あー、久我さんね。ハイハイ。彼女なら多分来ないんじゃないか?」
「来ないって、どういうことだよ。なんでお前にそんなことがわかるんだよ」
ケントは少したじろぎながらも、目線を左に泳がせながら話を再開した。
「うーん。まあ、色々あってなぁ……。彼女、引っ越したんだよ」
「引っ越した?」
引っ越してしまったとなると久我さんがここにくる可能性は殆んど無いだろう。彼女への手懸かりが引っ込んでしまった。
「あー、引っ越したって言っても親の転勤とか、家を買っただとか、そんな理由じゃなさそうでな……」
思考を整理するため、ケントは一旦話を区切った。沈黙はほんの数秒のはずだったのだが、僕にはそれが何分間も続いたように感じられた。イライラから湧いてくる不満まじりの質問をぶつけたくなる感情を抑えて、彼が再び口を開くのを待った。
「彼女とお前が知り合う前だ。小4くらいの頃からだったか、彼女の親が新興宗教にハマっちまったみたいなんだ」
「それと引っ越しに何の関係があるんだ?」
「ソイツがマトモじゃなかったんだよ。妙な噂だとか目撃談が山ほどあるような連中でな。寺院から奇声が聞こえるとか、異臭がするとか……。それでも俺達が小学生だった頃はまだ静かにやってたみたいだったんだがな、卒業した後辺りからエスカレートしはじめて、周りの住民ともしょっちゅうモメるようになったんだ」
「なるほど、近隣住民に追い出されて町から出ていったのか。それで彼女も一緒に……」
「半分正解だな。ある日しびれを切らした住民の一人が寺院に怒鳴り込みに行ったらしいんだ。でも彼は一日経っても帰って来なかった。二日後、心配した彼の家族は人を集めて寺院に彼を探しに行ったらしい。でも、連中は寺院をそっくりそのまま残して居なくなったんだ。廃人のようになった男を一人残して。」
出来すぎた話だ。きっと些細なトラブルに尾ひれが付いたのだろう。でも、これでは彼女に会うことができなくなってしまった。せめて新しい手掛かりだけでも……
「あっ、そうそう。これは余談なんだが、残った寺院はなぜか誰も手をつけていなくてな、まだそのままの状態で残ってるんだ。なんせ噂が噂だからなぁ。夜中に叫び声が聞こえるとか、女の幽霊が出るとかいって心霊スポットになってんだ。なんだったら今夜にでも肝試しに行ってみるか?」
確かに、寺院に行けば彼女の手掛かりを何か掴めるかもしれない。
「それだ! そこにいけば何かがわかるかもしれない」
「エッ……冗談のつもりだったんだけどなぁ。あんな所に行くとか正気かよ。てか、お前おかしいぞ。なんでそんなに躍起になってんだよ……」
こうして今夜寺院に行くことになった。
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