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「寺院って言っても全然寺っぽくないんだなぁ」
彼女の両親が信仰していたという宗教の寺院の前で待ち合わせをした。外観は普通の四階建ての建物だった。寺院というよりは事務所と言った方がしっくりくるだろうか。
「まぁ、外観にそんなに変わったところはないんだがな。っておい! ちょっと待てよ」
正面入り口のドアに向かって大股で歩みを進める。僕の数歩あとでケントが追い付いた。
ドアノブを静かに回す。鍵はかかっていないようだ。ギィ……と静かに軋みながらドアが開いた。
寺院の中に入ると外気より僅かに暖かな湿った空気が顔に張り付いた。
「うわー。やっぱり雰囲気あるなぁ。心なしか息苦しい気もするし」
ケントは恐怖心からか饒舌になっている。
階段を探して上にあがる。最上階の部屋から順に下の階を調べることにした。
最上階の部屋には何かの像や、経典らしきものが、散乱していた。この宗教のことはよくわかないが、ここで礼拝のようなものを行っていたのではないだろうか。
「うわぁ、気味わりぃな。なんだよこの像。顔がえぐれてらぁ。なんか酸っぱいような線香のような臭いもするし」
ケントを視界のすみで捉えながら、名簿など、久我さんの行方の手掛かりになりそうなものを探す。月明かりと懐中電灯の明かりではよく見えないので、埃を被った像や金属器を掻き分け、手探りでガラクタをどける。
十五分くらい部屋中を探したが目ぼしいものは得られなかった。次の階に行こうとケントに合図をだす。
「ようやく終わったか。こんなところでよくじっとしていられるよな。あれ、お前手が切れてるぞ。あの中にナイフか何かが混ざってたんじゃないのか?」
ケントに言われて左手で右手の指先を触ってみた。ヌルヌルする。結構大きく切れてしまったみたいだ。
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