断末魔

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僕が部屋の押入れから埃を被った植物図鑑を発見したのは、成人式の3日前、遅すぎる大掃除をしていたときのことだった。向日葵の花が表紙に描かれたハンディサイズの植物図鑑。長い間この部屋で過ごしてきたが、こんなものは今まで一度も見かけたことがなかった。 ん……? こんな図鑑あったっけ…… 見覚えのない図鑑の出所を考える。自分で買うことは無いだろう。だとすれば、人からもらったのだろうか。人から贈り物をもらった思い出を一つずつ辿る。すると、遥か昔、八年前の記憶に思い当たった。 あっ、思い出した。これはたしか……久我さんから貰ったものだ。 久我さんというのは、僕が小学生だった頃の同級生である。いつも無口で、ボーっとしているのか、考え事をしているのかよくわからない、ミステリアスな雰囲気の女の子だった。 彼女には友達はあまりいなかったようだったのだが、なせだか僕とは気が合ったみたいで、休み時間に遊んだり雑談をしたりして一緒に過ごしていた。この図鑑は、小学校の卒業式の日、最後に別れた際に、彼女から貰ったものであった。僕は別地区の中学校に入学することになっていたので、彼女とは別の学校に進学することが決まっていたのだ。 机の上に移動させるために、図鑑にそっと手を触れた。すると、十二年前の記憶がありありと思い出された。 彼女は今どこにいるのだろうか。何をしているのだろうか。急に彼女のことが気になって仕方がなくなった。後ろ髪を引かれる気持ちがする。襟足は短いのだけれど。 そうだ、もうすぐ成人式がある。そこで彼女に会えば良いではないか。
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