【番外編】 その輝きを我が手に

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【番外編】 その輝きを我が手に

(最後の「やり直し」後の世界で、上司の合田視点から見た千葉と一保の話)  千葉創佑は優秀だが扱いづらい。  それが、彼の前所属から人事情報として引き継がれている内容のひとつだった。  頭がよく、身体能力が高くて、周囲と強調することもできる。体格も容姿も悪くない。  けれど、自らの能力や才能を過信するあまり、一度周囲や上司を「こいつは仕事ができない」とみなすと態度が豹変する。自分の判断の方が正しいと思えば平気で命令に背くし、それを正当化するのがものすごくうまいのだという。論理的で狡猾なまでのアウトプット能力で、衝突せずに周囲を丸め込んでしまうのだ。  我々の業務で大切なことは、言うまでもなくチームワークだ。  言葉通り命がかかっている。要救助者のみならず、隊員の命も。  したがって、隊長同士で隊員を指名してチームを決める、通称ドラフト会議においても、千葉の扱いに俺以外の全員が頭を悩ませていた。 相当に優秀だから、チームに入れてみたい。けれど、うまく自分が御せるだろうか、と悩み、誰もが眼を見合わせ、様子を伺っていた。 「千葉をもらいます」  俺の言葉に、ほかの隊長連中が目を丸くする。  自信があった。こいつは、多少ひねくれたところはあるが、実力を認めさせることができれば強い忠誠心を発揮して尽くしてくるタイプだ、と思った。特に根拠なく。  俺の下につけて、とことん鍛え上げてやろう。それは自分の出世や評価のためではなく、純粋に、特殊救難隊という組織の能力向上、底上げにつながると考えていた。  俺の予感は的中した。  千葉を育てるのに、特に苦労はなかった。時には厳しく叱責したが、大切な部分以外は締め付けずに、好きにやらせるようにした。そして自分が持っている知識や技術は、求める限り惜しみなく与えた。すると、ほほえみを貼りつけたままこちらを警戒していた千葉が、徐々に心を開いていった。  前職場では、(コンパ以外で)職場の人間と飲みに行くのは好きじゃない、と公言していたらしいが、俺のことはよく誘ってきた。当初は、コンパにしょっちゅう誘われた。「合田隊長は男前で体格もいいし、絶対連れてきてって言われてるんす」とへらへら笑いながらよく誘われたものだが、俺が全く乗らないことが分かると、今度はふつうに飲みに誘われた。一対一で飲みに行っているうちに半年がすぎ、ほかの隊員たちともなじみはじめ、みんなで行くようにもなった。 「合田隊長の好みの女の子って、どんな人ですか」  よく聞かれる質問だ。しかしこの質問は異性愛を前提とされているため、聞かれるたびに嘘をつかなければならなので面倒な質問でもある。ただ30歳をすぎいい加減対応にもなれてきたので、いまは答えを決めている。 「西島ゆいのような子かな」  今をときめく清純派女優の名前をこたえておく。派手すぎず、地味すぎず、映画を中心に出演している彼女は、艶のある黒髪と、猫のような美しい眼と、気の強そうな薄い唇が印象的な美女だ。実際、好みの系統の顔ではあるのだが、性的な目でみたことはない。異性は俺の、恋愛の範疇外なのだ。あとは、同性の同僚も範疇外である。決まった相手は持たないことにしているから、大体バーで知り合った人間と、数回関係を持っては次へ、というローテーションを組んで後腐れがないようにしていた。  千葉をはじめとした部下たちが、一斉に「あのホマキにそっくりの?理想高いですねー!」と叫び、だからもてるのに彼女つくらないんですね、と勝手に結論を出してくれる。嘘をついて申し訳ないという気持ちはなくなって久しいが(そもそも、すべての人間が異性を好きになるものだと決めてかかっていること事態が傲慢だと俺は思う)、嘘をつかされる手間には辟易していた。 「千葉、お前はどんな子が好みなんだ。ずいぶん派手に遊んでいるようだけど」  急に水を向けられた千葉が、ジョッキを傾けたまま焦ったような目で俺を見た。里崎をはじめとした数人の部下は、一斉に千葉の女癖について「最悪だ」「あまりに軽い」「そのうち刺される」と揶揄しはじめる。 「俺は……その。すげー好きだった奴がいたんですけど、あっさりふられちまって、それから恋愛ってどうするんだっけ、状態ですね」 「それは、他人の心をもてあそんでいい理由にはならないっすよ」  一番新人の里崎から即座に返された言葉に、千葉はう、とうめいて沈黙する。 「お前がそこまで入れ込むなんて、よほどかわいい子だったんだろうな」  性的関係について人に説教する資格は俺にはないので、さりげなく話題を変えてやる。すると千葉は、思いのほか真剣で苦い顔をして、どうなんでしょう、とつぶやいた。 「顔はきれいでしたね。ほら、さっき西島ゆいって名前出てたけど、目元と口元はちょっと似てるかもしれないです。猫みたいな眼をしてて、気が強くて、短気で、でも情に厚くて……。なによりも、一緒にいるとすごく楽しかった。運命感じてました、…一方的にですけど」  千葉が自分のことを話すのは珍しい。俺だけでなく、部下たちも同じ感想を抱いたらしく、茶化したりせずに黙って耳を傾けていた。  夏の終わりが近づいていることを知らせる、涼しい風が店の中を通り抜けていく。  屋台のようにビニールだけで外と仕切られている安居酒屋で、汗をかいたジョッキに指をすべらせてから、千葉は笑った。 「え、なんでそんな真剣なんすか、みんなして」  肩をすくめて千葉がそう言うと、里崎が眼を細めて返した。 「うらやましいです。俺そこまで人を好きになったことないんで」 「フラれてんだけど。…うらやましいか?変わった奴だな」 「写真とかないのか」  千葉より一年先輩にあたる高坂が言って、千葉の携帯を取り上げようとする。慌てて携帯をがっしりガードしてから、不意に苦い笑みを浮かべて言った。 「あるけど、見せません。絶対、誰にも」  __なぜだろう、俺も里崎と同じような気持ちになった。  こんな顔をするほど、いままで誰かのことを、深く思ったことはあっただろうか?  考えるまでもない。俺には、一度だってなかった。  なぜなら、そうならないように努めてきたから。 ***  官舎について、アルコールでぼんやりした頭のままテレビをつけた。BSの音楽番組が映って、チャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばす。ローテーブルの下に放逐されていたリモコンは、あたりどころが悪くてテレビボードの下へと潜り込んでしまった。  舌打ちをしてソファに腰掛ける。普段全く興味のない、クラシック音楽を流す番組だった。新進気鋭の日本人音楽家達を2名ゲストに呼んで、即興に近いかたちでセッションをしてもらうということらしい。  興味は全くないものの、何か音がほしかったのでそのままにして冷蔵庫から水をとってきた。一息に半分ほど飲み干してから、テレビの画面に目を移す。  そこには、線の細い美青年がヴァイオリンを手にほほえんで立っていて、簡単な経歴がテロップで流れていた。  世界三大コンクールと言われるチャイコフスキー国際コンクールヴァイオリン部門で、日本人3人目、最年少で受賞したと紹介され、彼は恐縮したように「自分でも驚きました」と上品な口調で答えている。  一生縁のなさそうな世界だな、と感じながら、テレビの電源ボタンに手を伸ばす。他人の華やかな人生の話なんて、今は聞きたくない。 「それではお聴きください。セルゲイ・ラフマニノフ「ヴォカリーズOP34の14」 __うつくしいピアノの旋律とともに、きいたことのあるメロディが流れはじめる。改めてみると、ピアニストの男もかなり若い。彼はジャズピアニストで、ニューヨークに単身渡って成功し、近々アルバムを発売するのだという。  悲しげでロマンチックなヴァイオリンの旋律と、ピアノの音。ふたつは絡み合うように奏でられる。6分弱の短い曲だったが、普段クラシックなんていっさい聴かないのに、惹きつけられて最後まで聴いてしまった。  大げさな感じも、入りすぎている感じも全くない、淡々とした演奏にみえるのに、ピアノの演奏には哀愁が漂い、ヴァイオリンの音色には憂いがあった。クラシックの世界でプロになるには、幼い頃からの英才教育が必須で、音楽家になるような人間はすべて、選ばれた家の、裕福なこどもたちだけだ。彼らの奏でる「哀愁」なんて、偽物でしかない。そう思って敬遠していたのに、いま目の前で流れている音楽は、確実に本物の「憂い」と「哀愁」があった。興味のない人間を釘付けにするような、確かな「才能」とともに。  ソファの肘掛けにクッションを置いて、目を閉じて横になる。引き続き流れはじめたのは、俺も知っている曲だった。  エルガーの「愛の挨拶」に聴き入っているうちに、眠気が襲ってきた。照明のスイッチに手を伸ばそうとしたまま、抗いきれずに身を任せてしまう。  曲は、いつの間にか「チャールダーシュ」に変わっていた。 ***  千葉創佑は扱いづらい。  そう言われていたのが、嘘のようだ。  少なくとも俺の部下になってからは、反抗的な態度を見せたり、人を小馬鹿にしたり、命令に背いたりすることはない。むしろ、ストレートに慕われていると感じる。 「合田隊長、飲みに行きましょうよ、金曜だし」  このように、金曜のたびに飲みに誘ってくるし。 「明日は待機日だろ」  こいつと飲むと朝までコースになるからイヤなのだ。お互いに酒量に適量というものをわきまえないところがあって、飲み出したらとことん飲んでしまう。俺は俺で、飲むと物わかりのいい先輩を演じたくなってしまって、話さなくていいことまで話してしまったり、聞いてしまったりする。 「分かってますって。一軒だけいって、さっと帰りましょう」 「お前のそれ、守った試しがないけどな」  羽田基地から出たのは朝の9時すぎだった。朝から飲めるわけがないので、お互い一度家にかえって休んでから、都内で飲むのである。 「今日は本当に一軒だけだぞ。明日は海があれる予感がする」 「うわ~、やだな、合田隊長の予感当たるからなあ」  見上げた空は少し曇っていた。お互い官舎住まいなので、エントランスまで一緒に歩いていき、新橋に18時集合で、と約束して別れた。  どんなに深い睡眠でも、アラームの音が2秒流れただけで起きあがれる。これは、俺の自慢の特技のひとつだ。  午後四時半にセットしたアラームで起き上がり、風呂に入って新橋駅で千葉と合流した。  自分自身も相当からだが大きい方だが、180センチをこえていてがっしりとした体格をしている千葉は、待ち合わせ場所でも相当目立っていた。  気に入っている居酒屋に無事入ることができて、生ビールをガチャンとぶつけて乾杯をする。魚のうまい店なので、しばらくの間、ふたりとも黙って食べた。俺はもうすぐ配属される、ヒヨコ上がりの新しい隊員たちのことを考え、隊編成のドラフト会議のことを考えながら、刺身をくちに運んだ。 「また新人が配属される季節になりましたよね」  千葉が、感慨深そうに言う。 「ああ。今年もなかなか見込みのある連中が来たみたいだな」  A水槽でもみくちゃにされてぐったりしている新人たちの中に、かなり俺好みの顔をした男がいたことを思いだし、実力次第では自分の隊に入れたいものだな、とよこしまなことを考え、いや、実力が伴えばだ、と心の中で否定する。仕事に私情は持ち込まないのが、長く続けていくために必要不可欠なコツだ。 「実は、あの中に同期がひとりいるんです」  おおかたの経歴や能力は把握していたが、それは初耳だった。 「へえ。誰だ?」 「村山ってやつなんですけど」  驚いた。俺の好みにぴったりはまっていた男が、千葉の同期なのだという。 「あいつ、すごいよな。なにがすごいって、訓練の内容を知ってたみたいに落ち着きはらってる」 「ハハ。喜びますよ、伝えておきます」  一度本人と話をしたことがある。  訓練が終わってぐったりしたまま帰路につこうとしていたヒヨコ軍団の中、ひとり平然としていた村山に声をかけたのだ。ほかの連中ときたら、まるで俺を軍隊の中の英雄みたいな扱いをして大騒ぎしていたが、肝心の村山はまるで表情を変えずに「なんでしょうか」と受け答えをしていた。  村山は、俺や千葉に比べると背が低く、体も細身だった。とはいえ、175は超えているし、一般に比べれば十分立派な体つきをしているのだが、屈強な特殊救難隊の中にいると、ひとりだけ浮いてさえ見えた。 「何か特別な練習や訓練をしているのか?」  俺の質問に、村山は変な顔をした。そしてすかさず返して来た。 「泳ぐのにずいぶんなれているようだね、という質問なら、はい。俺は海辺で生まれ育って、走るよりも先に泳いでいましたから」  猫のような魅力的なかたちをした目が、ぎゅっと細められる。ひとなつこい笑顔を浮かべた村山は、「合田隊長にほめられるなんて光栄です」と手をさしのべてきた。  握手を求められている、と気付いて、そろそろと握り返す。 「どうして、俺の名前を」  とても熱い手だった。名残おしく思いながら手を離せば、彼は白い歯をみせて屈託なく笑った。 「この仕事をしていて、知らない人はいませんよ」  俺は、人になれなれしくされるのが嫌いだ。特に、初対面から距離が近い人間はもっとも苦手とする種族だ。  それなのに、村山は不快じゃなかった。むしろ、懐かしい気すらした。はじめてあった気がしない、不思議な男だと思った。  ほかの人間のように、俺を神格化して距離をおいたり、もてはやしたりしないところも良かった。つられて笑い返すと、村山が笑みを深くする。 「それじゃ、行かないと。__あの、」 「なんだろう」  振り返り、仲間達のところへ走ろうとした村山が、逡巡してから言った。 「実力で認められたら、あなたの隊に入れますか」  好みのタイプからまっすぐ見つめてそう言われて、悪い気分がするやつはたぶんいないだろう。自分でも情けないぐらい、頬がゆるんでしまった。 「ほかの隊長との駆け引き次第だけど。君にそれだけの価値があると、俺に認めさせてくれれば……なんとかできるかもな」 「後悔させません」  そういって、拳をつくって胸にトンと当ててから、手を振って去っていく。なんて気持ちのいい奴だろう、……まいってしまうぐらい好みだ。 「あの、合田隊長。……きいてます?」  千葉に肩をつかんで揺さぶられ、はっとした。 「悪かったな、違うことを考えていたよ。で、なんだった」 「ひどいな~。だから、一保……じゃなかった、村山を引っ張ってもらえませんかって話ですよ」  訓練の結果次第だってことは分かってます、と真剣なまなざしで千葉が言った。 「あいつと組んだら、最強だって気がするんです。きっと息をするみたいに合わせることができるって。なんでか聞かれると困るんですけど」 「村山とバディを組んだことが?」 「ありません。だからただの勘です」  俺がビールのジョッキを空にしたのに気付いて、千葉が手を挙げて店員を呼び、ふたつ追加した。 「お前の勘は、確かによく当たる」  ここから先は俺の仕事だった。まずは、村山の実力を見極めること。いまの自分の隊に、必要な能力なのかどうか、情報を集め、判断すること。  厳しい戦いになりそうだが、久々に管理職としての腕の見せ所だ。 「まずは、村山が使えるかどうか、判断してからだな」 「ありがとうございます!」  こいつの、なんのてらいもない笑顔なんて、はじめてみたかもしれない。  その表情の意味を知らないまま、俺たちは杯を重ねた。明日の任務に差し支えない程度に、とお互い釘をさしながら。 ***  村山一保です、と名乗って周囲を見渡した新しい部下は、ほかの新しい隊員たちと比べて、明らかに落ち着いていた。  よく通る声は、語尾が掠れる、少し甘さのあるもので、隅から隅までソソるタイプで困るなあと思った。  まあ、部下である限り、手を出すことはないのだけれど。 「やっと来たな。まちくたびれたぜ!」  戴帽式が終わると、オレンジの制服とベレー帽に身を包んだ千葉が勢いよく村山に飛びつき、あらっぽく頭をかき混ぜていた。 「ちょ、おまえ、帽子飛んでっただろ!」  手荒な歓迎を終えて、羽田基地で業務をはじめても、千葉の浮かれた様子は変わらなかった。さすがに上司として注意をしようか、と思ったほどだ。だがそれも、実際の任務についてみると、杞憂だったことがすぐ分かった。千葉の希望通り、村山のバディを千葉にしてやると、彼らは驚くほど息のあった救助をしてみせた。ふつう、人事異動発令からひとつのバディとして定着するまで、ひと月程度はかかるものなのに。  2、3ヶ月もすると、その理由が見えてきた。 「村山、今日は俺と組め。千葉、お前は里崎と」 「ええ~~!こいつと俺だと実力に差がありすぎでしょ~!?」 「ひっでえ、いくら先輩でもそりゃないっすよ」  複数の語学に堪能で、頭の回転も悪くなく物怖じしない村山は、あっという間にうちの所属に馴染んだ。人付き合いも良く、言いたいことを言っているのに嫌われておらず、むしろ年上にかわいがられ、年下には慕われていた。 「千葉、村山離れしろ。今日は俺と飲みに行こうな、村山」 「わはっ…、はい合田隊長。喜んで!」 「喜んでんじゃねえよ、居酒屋の店員かお前は!くそ~俺も行きますからねっ、隊長」  数年前に隊員が大けがをしてから、どことなく組織自体がぴりぴりしていたのだが、そういう暗い要素を吹き飛ばすような明るさを、村山が持ち込んだ気がする。  この感じは何かに似ている、と考えているうちに、日がすぎた。夏が終わり、秋が来る直前、それが何であるか思い至った。  その日は、千葉とバディを組んで潜っていた。出動した先は故郷、小笠原近くの海で、濁りひとつない美しい海だった。漁船と客船が衝突して、数人が行方不明になった、という事案で、俺たちは海に潜り、行方不明者を捜索していた。  20メートルほど潜ったところで、要救助者を発見したころには、日はかなり傾いていた。船から照らされる明かりを頼りに、俺と千葉は海面へと浮上した。決められた手順を守り、それでも最大速度で。  暗く、不気味な海中から、ゆらゆらとゆれる光がみえた。それはまるで、暗闇の中に差し込んだ陽光のように、俺と千葉の心を勇気づけた。あと10メートル。…あと5メートル……海面だ。  助け上げた要救助者に、救急救命士の資格を持つ里崎が救命措置を施している隣で、村山が「おかえりなさい」とささやき、微笑んだ。そのとき、俺はとっさに千葉を見た。なぜか、確認しなければ、と思ったのだ。  千葉は、「ああ」とつぶやいて、切なげな視線で村山をみつめた。それは、まさに暗闇で陽光を見つけた旅人のような、切実で希望に満ちた表情だった。  その瞬間、俺には分かってしまった。千葉が、求めてやまない、そして手に入らなくてもがき苦しんでいるのは、この陽光に似た部下なのだと。  妙にしんとした気持ちが、心のなかをひたひたと満たした。  冷たくなった風が、ウェットスーツを来ている俺たちの体を、遠慮なく冷やしていく。  地平線に消えた太陽の欠片を探すように、千葉が村山の方へ向き直って、腕を伸ばした。 (終わり) ※続編への伏線が少し入っていますが、さよならサンシャインはこれで完結です。 ありがとうございました。
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