次の世界へ

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   小田原城の天守内に入り上層に上がった。  薄暗い室内の天井は思ったより低く感じた。観光客の姿は、中年夫婦の一組 だけで、空間に静寂で清々しい空気が広がっていた。    光輝の眼に、天守閣から見渡す眺望が、明るく映された写真のように観えた。映る風景が、壮大で何処までも続くような広々とした世界には観えなかった、区切られた圧迫感の在る空間に映った。  光輝はおやっ?と思った。森林や田畑、ビルや住宅や道路、海や山や空に奥行きを感じたのだ、眼下に、緑や薄茶色の葉が茂った木々の塊が広がり、その後ろに小さなビルや白い壁の住宅が雑多に連なり、更にその後方に、薄青く滲む相模湾が横たわっている。今まで光輝の目には、そういう風景一体が、一枚の画用紙に描かれる写生画の様に、ベッタリとした平面画の様にしか映らなかった。しかし、森林や田畑には蝶やバッタや蜘蛛が、ビルや民家には人間や犬や猫が、海や山や空には魚が哺乳類が鳥が、平面ではない立体と生って浮かんだ。  目の前の空間が果てしなく広がる、壮大な景色に変わっていく ……  こんな感覚は生まれて初めてだった。
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