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誤配された手紙
「また誤配か……」
郵便受けを覗き、舌打ちをする。
近ごろ誤配が続く。手紙の送り主は、筆跡からすると女性のようだ。何より不可解な点がある。これは隣の家に配達されるべき手紙の誤配なんかじゃない。宛先も宛名も書かれていない。ただ送り主の住所だけが書かれた手紙。それは隣の県の名前すら聞いたことのない町から送られていた。
ありえないミスの連続に腹が立ち、郵便局に電話して怒鳴ったこともある。郵便局側は考えられないことだと繰り返した。でも、現にこうしてどこの誰宛かもわからない手紙が届いている。
こう何度もやられちゃさすがに我慢も限界だ。そう思った俺は、興味本位で手紙を開封してみた。それくらいの権利はあるだろう。
どこにでもあるような真っ白な封筒。それなのにどこか違和感を覚えた。中にはふたつに折り畳まれた紙が一枚。抜き取り内容を覗き見た俺は、一瞬にして背筋が凍りついた。
『助けて』
その文字だけがただ殴り書きされていた。
「M町なら、ここを真っ直ぐ歩いて行けば着くよ」
軽く手を振りながら礼を言う。駅を出た俺は、火のついていないタバコを咥えた老いぼれのおっさんに道を尋ねた。
やけに古い町並みだな。まるでタイムスリップしてきたみたいだ。M町を目指して歩きながら思う。とても同じ時代に存在する町には見えない。都心からそれほど遠く離れていないというのに、こんなにも町の雰囲気が変わるものだろうか。
「変な服。なーんだアレ?」
すれ違った子供たちが俺の服装を見てからかう。彼らの服装もどこか貧しく、今じゃすっかり見なくなった洋服を着ている。
穴だらけのアーケード。朽ち果てた看板。埃っぽい商店街を抜けさらに歩くと、M町と書かれた道路標識が目に飛び込んだ。街区表示板を頼りに歩いて行くと、誤配された手紙に書かれた住所の近くに出た。
「あれか……」
建ち並ぶ古ぼけた家のなかでも、ひときわ薄汚れたバラック。どうやらあの家が、手紙の送り主が住む家のようだ。
家の前に立つと、廃墟のような雰囲気に気圧された。大げさに唾を飲み込んでから、ドアをノックしてみる。インターフォンや呼び鈴がなかったからだ。何度ノックしても反応がない。まさかと思いドアノブに手をかけてみると、握った勢いのままドアが開いた。
支える物を失った身体はバランスを崩し、倒れるように玄関に足を踏み入れてしまった。目の前には悲しくなるほどに狭い部屋。何年も掃除されぬまま放置されているだろうゴミの山。その中に敷かれた薄い布団の上で、若い女が眠っている。汚れた家には似つかわしくない、キレイな顔をした女だった。
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