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「来てくれたんだね」
「あっ──いやぁ。助けてって書いてあったから、なんか心配になっちゃって」
薄目を開けた女が話しかけてきた。重苦しい空気を吹き飛ばそうと、あえてヘラヘラした調子で返事をした。
「水を汲んで欲しいの」
痰の絡んだ声で女が言う。急な頼まれ事に戸惑ったけれど、女が横になる布団の脇に置かれたグラスを手に取り、台所で水を汲んでやった。それを手渡すと、女は身体中の乾きを潤すようにそれを飲み干した。
「助かった──」
「えっ?」
「誰かに水を汲んでもらわなきゃ死ぬところだったから」
たったそれだけのために『助けて』の文字を書いて手紙を送ってたのか? まぁ、何か重い病気を患っているのかもしれない。詮索は無用だろう。役に立てて何よりだ。
「私と一緒にいてくれない?」
「は?」
「私はひとりじゃ生きられない。見たらわかるでしょ。私の身体に自由なんかない。誰かそばにいて欲しいの」
女は突然泣き出した。あまりにも急な展開に、どう反応していいかわからない。このまま長居してもいいことは起きそうにないと判断した俺は、再びグラスを手に取り、水道水でそれを満たした。
「また喉が乾いたときのために」
布団の脇にグラスを置く。それだけ言い残し、振り返ることなく女の家を後にした。背中にまとわりつく女の嗚咽に罪悪感を抱きながら。
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