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9時前になり、ぼうっと立っている僕の前に、50代位の女性が近寄って来た。
目は僕を真っ直ぐに見て、泣いているのに笑顔だった。
それを見て、僕も涙目になる。
(間違いない……この人だ。)
何も言わずに抱きしめ合った。
その瞬間、ふわっと懐かしい匂いがした。
「お母さん……お母さんだ。ごめん、謝りたかった。僕の所為で…お母さん、逮捕されたんだ。お母さんの人生を壊した。」
母は首を振り、笑顔を向けてくれた。
そして母の秘密を聞く。
あのアパートに越して来てすぐ、僕と妹が虐待されているのでは?と疑っていた事。
追い出される僕達を見て放っておけずに部屋に入れた事。
何度も通報しようと考えたが、過去が邪魔をして出来なかった事。
母は、前科があった。
夫の暴力に耐えていた母は、妊娠して離婚する覚悟で家を出る事にした。
夫に見つかり流産した。
結果的にそれでお互いの両親が知る事になり別れる事は決まったが、夫は母を追い回し、耐えかねた母は……身を守るためとはいえ夫を刺してしまった。
傷害で逮捕された母は服役したのだと話してくれた。
出所後、すぐにあのアパートに住み始めた。
そんな過去があり、警察に通報する勇気がなかったと言う。
だから母は、僕を抱きしめて何度も謝っていたのだと気付く。
ごめんね…の後には通報できなくて…と続いたのだろう。
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