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一課に不穏な訪問者が現れた。
――調子っ外れなソプラノのキンキン声が、室内全域に谺した。谺というよりは、甲高く穿つ不協和音だ。
女の声。
それも漫画かライトノベルのような、間延びしたマイペースな呼びかけ。
徳憲は聞き覚えのある声色にタイピングの手を止めた。顔を上げると、同僚たちが徳憲を一様に覗き見ている。
「ご指名だぞ、徳憲」
「判っていますっ」
刑事の一人にからかわれて、徳憲は勢い良く立ち上がった。
椅子を蹴るように歩き出したため、非常にけたたましい。彼自身、苛立っている。
警視庁内で女性に呼ばれるなんて、そんなに珍しいか?
そう――珍しいのだ。
何だかんだで男所帯だから、どいつもこいつも女性に縁がない。警視庁の中で名指しされるなんて、どんな仲良しかと勘繰られてしまう。徳憲はそれが嫌だった。
デスクワークの最中に、邪魔しないでもらいたい。
「やっほー、忠志くーん」
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