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下の名前で呼ぶな。
馴れ馴れし過ぎるだろ、この女。
徳憲は胸中で舌を打ちながら、一課の出入口に待ち構える女性と相対した。
小さい。
一瞬、視界に入らず見逃しそうになる。
二〇代後半のはずだが、どこか抜けていて幼く見える。大きなお目々とおちょぼ口、童顔に瓶底眼鏡をかけているが、重みで鼻にずり落ちている。
体型は痩せた寸胴で、とても大人には見えない。具体的には、体の凹凸がない。
ブラウスの上にサスペンダーでズボンを吊っており、肩に羽織った染みだらけの白衣が今にもずり落ちそうだ。
伸び放題の黒髪はボサボサで、そばかすも目立つ。当然、化粧も香水も付けていない。
直立さえも億劫なのか上体が揺らいでおり、どこか斜に構えているようにも見えた。
「忠岡悲呂さん」
徳憲は彼女の名を口に出した。
本当は呼びたくもなかったが、対面した以上は仕方がない。
「こんにちはー忠志くん」
「こんにちはーじゃありませんよ。何しに来たんですか」
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