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所員は皆、警察でありながら正規の採用ルートではなく他業種から引き抜かれた特別採用者が多数を占める。要するに高学歴かつエリートだから、ノンキャリアの徳憲はつい、敬語で接してしまうのだった。忠岡の方が年下なのに。
「科捜研・文書鑑定科の心理係……忠岡悲呂さん」
「んもー忠志くんったらー。あたしのプロフィールを改めて言い直すなんて、さてはあたしに惚れてるなー?」
「ハァ?」青筋を立てる徳憲。「そりゃ俺は仕事一筋で女っ気が全くありませんけど、忠岡さんみたいな冴えない干物女に懸想するほど飢えていませんよ」
忠岡は身なりに無頓着な地味子ちゃん、と蔑視するにふさわしいいでだちだ。こんな垢抜けない女性のどこに惚れる要素があるというのか。
「あ、言ったなコノヤロー」髪を振り乱す忠岡。「ちょーどさっき、忠志くんたちが帰って来るのを見かけたからー、冷やかしに顔を出してやろーと思ったのにー」
「やっぱり冷やかしじゃないですか。仕事して下さいよ」
徳憲は嘆息を吐いた。
辟易してかぶりを振ると、視界の端で同僚たちが徳憲に後ろ指を差している。
(だから勘違いするなって。俺と忠岡さんはそんなんじゃないんだよ!)
今すぐ弁解したかったが、釈明すればするほど怪しまれるのでじっとこらえる。
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