第一幕.非解決役の破綻推理

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「孤児院の事件、詳しく教えてくんないかなー?」 「…………へ?」  徳憲の頬骨(ほおぼね)が凍り付いた。  この女、今、何と言った?  孤児院の事件――今しがた捜査を終えた、あの孤児院か?  なぜ忠岡が、それを知りたがる? 「忠岡さん、冷やかしって嘘だったんですね。本当は、俺が孤児院に出向いたのを耳に入れて、帰って来るのを待ち伏せしていたんですか?」 「んふふー、バレたかー。実はそーなのよー。さすが忠志くん、鋭いねー」 「いや誰でも判るでしょ」 「どー切り出そーか迷ってたけどー、おかげで踏ん切りが付いたわー」ボリボリと黒髪を掻く忠岡。「忠志くんが、あの孤児院に行くって聞いたらー、もー居ても立ってもいられなくなってー、仕事をサボって待ってたのよー」 「やっぱりサボっていたんですね。昼間は働いて下さいよ、給料泥棒かよ」  科捜研の勤務形態は、月~金の日勤である。他の警察は二四時間シフト制だが、科捜研はサラリーマンと同様に昼間こそが勤務時間であり、持ち場を離れてはいけない。 「忠岡さんと孤児院に何の関係があるんです? 第一、これは事件じゃなくて事故です」
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