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「あたしさー、その孤児院の出身なのよねー」
…………。
…………。
「ええっ!?」
思いがけない出自だった。あまりの偶然にどう反応すべきか見当も付かない。
「あたしはおねーちゃんと二人きり、親が蒸発して孤児院に預けられたのー。おねーちゃんが就職してからは一緒に独立してー、あたしは大学院まで進学したわー。心理学博士号や臨床心理士や公認心理士を取得したときー、科捜研に引き抜かれたってわけー」
だから孤児院について聞きたがっていたのか。
理由もなしに、この女が会いに来るわけがないのだ。少なくとも色恋では断じてない。
「あたしたち姉妹を育ててくれた院長がー、横領なんかするはずないわー!」
「そう言われてもなぁ……その話は俺じゃなく、二課に尋ねた方が……」
「二課は駄目ー。院長の逮捕状をこしらえた大馬鹿どもよー? 信用できなーい」
感情で否定されても困る。
逮捕状が出たということは、よほど確実な証拠および犯罪に至る『ストーリー』が固まったことを意味するのだ。
それを今さら個人的な所感で覆せるわけがない、のだが――。
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