第一幕.非解決役の破綻推理

13/66
前へ
/261ページ
次へ
 臆面もなく忠岡が敵視したので、徳憲は大きくのけぞった。  その醜態に、同僚たちも何事かとこちらを注視する。恥ずかしい。 「忠岡さん!? さすがに今の発言は問題かと……英雄に対して何たる言い草!」 「そいつさー、孤児院の経理と知り合いなんでしょー?」 「はい。そこから内部情報を入手できたんですから、お手柄ですよ!」 「怪しーなー。実は経理が犯人じゃないのー? 英雄は知り合いをかばってるんだわ!」 「ないですよ! 伝説の英雄を疑うなんて正気ですか!?」 「あたしが必ず真実を暴いてやる! 院長の敵討ち! 弔い合戦よーっ!」  悲しいまでに支離滅裂な、悲壮な決意表明だった。  忠岡悲呂の『悲』もまた、悲壮の悲だ。親はよくこんな字を名付けたものだ。  彼女もまた、名は体を表しているらしかった。  やがて徳憲は、目の当たりにする――この漫画のように(ゆる)い心理係が、破天荒な手練手管をもってして、事件を引っくり返すさまを。    *
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加