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管理官は背が高く、初老とは思えぬ威圧感で徳憲たちを見下ろす。数々の経験と修羅場を重ねて来た要職の威厳だ。
「手伝って欲しいことがあれば言ってくれ。この管理官自らが惜しみなく尽力しよう」
「えっ、管理官が手伝って下さるんですか?」
徳憲は目を丸くした。
管理官は同科から出世した人物なので、研究機材の取り扱いも長けている。データを読み解くことも朝飯前だ。これほど頼もしい協力者もそう居るまい。
「忠岡は一度スイッチが入ったら、食事も睡眠も風呂すらも忘れて研究室にこもりっ放しになる。そのひたむきさに助力したいのだよ」
休めと言っても聞かないから、彼女の好きにさせているという。
「最後にモノを言うのは結局の所、そうした熱意、執着、飽くなき探求心だ。自分の若い頃を思い出すよ……ま、身だしなみにはもう少し気を遣ってもらいたいがな」
「ぶー。身だしなみなんて研究職に必要ないじゃーん」
管理官の苦言に、忠岡は頬を膨らませた。
あたかも身内で軽口を叩き合うかのようだ。徳憲は奇怪なアットホームさを見出した。
なるほど、ここが彼女の家さながらに振る舞うのも頷ける。
「心理係を除く文書鑑定科の仕事は、主に四つある」
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