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「さいですか……で、その刃物ですけど……報告書には市販の『大型ボウイナイフ』と書いてありますね。すでに特定済みですか」
書類をめくった徳憲は、刺し傷の形状から刃先の到達位置、深さ、刃渡りまで完璧に分析し尽くされた報告内容に舌を巻いた。
ときに図解入りで、ときに写真付きで補足された非の打ち所のない文面は、物理科の真骨頂と言えるものだ。
物理科には過去に日本で発生した傷害事件のうち、刀剣類の痕跡を全てまとめたビッグデータが保管されている。どのような刃物で刺すとどんな生傷が残るのか、どの刃物を使って死に至ったのかなど、傷害の類似例が瞬時に参照できるのだ。
「じゃあ、これは行きずりの強盗犯ではなく……殺意を持った明確な殺人事件ってことになりますね」
徳憲は頭が痛くなった。
科捜研にストーリーを引っくり返されたからだ。
してやられた。もう英川を励ますことが出来ないではないか。
凶器の大型ボウイナイフは見付かっていない。犯人の私物だから持ち帰ったのだ。隠し持っている刃物が見付かれば、それが何よりの物証となるだろう。
「やっほ~徳憲クン、元気~?」
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