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令状を請求し、才慥の部屋を強制捜査しろと暗に勧められている。
しかし徳憲は心情的に抵抗がある。英川宅から証拠が押収されたら、英川の完全敗北が決まる。だが状況はその方向へ傾いている。ストーリーはそっちが主流なのだ。
「やぁやぁ、みんなお揃いだねぇ」
続けて化学科の怒木が入室した。
朴訥な中年男性は昼行燈という言葉が良く似合う冴えない外見で、これと言った特徴もなく影が薄い。
彼に同伴するもう一人の化学科も居る。そっちはビール腹を揺さぶって歩く慂沢だ。体臭からして酒臭く、恰幅の良さが否応なしに存在感を主張している。
「よお徳の字! ベランダに残ってた埃や砂塵、土質を調べてやったぜ。ひっく」
「うわ、酒臭いですよ慂沢さん。昼間っから飲んでないでしょうね?」
「人聞きが悪いなあ、オレサマは仕事にゃあ真面目だぜえ?」
とてもそうは見えないが、彼は年季の入ったベテラン研究員である。腕前は一流だ。また捜査方針を揺るがすような新事実を見付けたに違いない。
化学科は土壌や土質の調査も担当する。現場に残された靴跡から履き物を特定するだけでなく、靴底からこぼれ落ちた砂粒までも鑑定し、どこの地域にある土のか、どこに住んでいた人物なのかを一発で見極めることが出来る。
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