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徳憲は朗報であることを祈りつつ、化学科の報告書を受け取った。
「ベランダに残された土質や靴跡を探した結果……え? 侵入者の痕跡が、ない?」
ない、と書かれていた。
徳憲は意味を理解できず、しばし呆然と固まってしまう。
「そうなんだよねぇ」穏健に話を切り出す怒木。「つまり、ベランダの窓が開いていたのも、犯人の偽装工作だったんだねぇ」
窓を開けておけば、そこから侵入されたのだと勘違いしやすいから――。
「じ、じゃあ本当はどこから?」
「――ああン? それを考えるのがてめえの役目だろうが徳の字よお!」
慂沢が徳憲の頭をひっぱたいた。
全力で叩かれた徳憲は机上にうずくまる。しかしそれが発破となり、徳憲の脳は活性化した。考えたくない可能性――英川才慥が犯人――にたちまち思考が到達する。
そうであって欲しくないのに、そうとしか思えない条件ばかりが嵌め合わされる。
才慥が犯人ならば、罪を免れるために行きずりの強盗を装った計画殺人であることも説明が付く。
「ど~したの徳憲クン? まさか科捜研の提出した報告を無視して、自分に都合の良いストーリーを押し通すつもりじゃ~ないわよね~?」
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