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「うっ」
愉本が徳憲の胸元に人差し指を押し当てて、ぐりぐりとつついた。
おねだりするような――それでいて有無を言わさぬ脅迫のような――妖艶な媚笑から目が離せない。徳憲は魅入られる寸前だった。魔性の女に釣られかけている。
「早く主任に推理して欲しいねぇ」
怒木も催促した。とてもごまかしきれる場面ではない。怯間も、慂沢も、怖川も、自分たちの仕事をどう捜査に活かされるのか虎視眈々と徳憲を監視している。
「おうおう、どうなんだよ徳の字?」
「さッさと推理したまえよッ!」
「さぁ、早く!」
「さぁ!」
「さぁ! さぁ! さぁ!」
「うぐぐっ……」
もう駄目だ。観念するしかない。
徳憲は根負けした。粘れなかった。才慥を犯人視したくないのに、彼を容疑者に見据えた『ストーリー』を組み立て直すしかなくなった。
断腸の思いで、前述の状況から最も妥当な『真実』を再構築する――。
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