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英川は遠ざかる。
徳憲は立ちすくんで、彼の背を追えなかった。
桜田門に向かう老人の枯れた背中は、地下鉄へ降りて見えなくなった。
「どうしてこうなった……どうして……?」
徳憲は自問するが、自答は出ない。
英雄と手を組んだ反撃は、呆気なく挫かれた。
忠岡に一矢報いることすら出来ず、水泡へと帰したのはお笑い種だ。
「俺は、自分の正義を貫くことも出来ないのか……尊敬する先輩の姿を、無言で見送ることしか出来ないのか……!」
「フッ! ざまァないねェ?」
「!」
やにわ後ろから話しかけたのは、きざったらしい悦地だった。
徳憲が仰天して振り返ると、悦地だけでなく忠岡悲呂のちんまい白衣姿もあつらえたように伴っている。
薄汚れた白衣の――とても潔白とは言えない――研究者が二人、徳憲の退路を阻むように立ちはだかる。いつの間に忍び寄ったのだろう。二人揃って不敵な笑みを湛えているのが癪に障った。
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