第一幕.非解決役の破綻推理

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 机の片隅に、ビニール袋に密封された一本の万年筆があった。 「この万年筆が?」 「院長が愛用してたペンよー」  忠岡が吐き捨てた。  心なし、言動に(とげ)がある。  院長の私物が押収されている現実。  このせいで院長に逮捕状が発行されたのだ。心中穏やかで居られるわけがない。 「ここで別の所員が鑑定した結果、二課は逮捕へと動いたのだ」  管理官は淡々と事実だけを口述する。  そこに感情は挟まない。研究結果のみを優先して取り扱う、プロの鑑だ。 「まだ現物を返却していなかったおかげで、もう少しだけ我々が調査できる」  二課は現在、容疑者を死に追いやった責任を問われている。おかげで鑑定依頼に出した証拠品を回収し忘れているのだ。 「どんな検査結果だったんですか?」  徳憲が尋ねると、管理官は忠岡の顔色を一瞥してから、デスクに手を突いた。  資料本がある。それを無造作にめくると、鑑定結果を印刷したファイルが閲覧できた。 「私文書偽造に用いられたインクが、()()()()()()()()()()のだよ」
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