108人が本棚に入れています
本棚に追加
机の片隅に、ビニール袋に密封された一本の万年筆があった。
「この万年筆が?」
「院長が愛用してたペンよー」
忠岡が吐き捨てた。
心なし、言動に棘がある。
院長の私物が押収されている現実。
このせいで院長に逮捕状が発行されたのだ。心中穏やかで居られるわけがない。
「ここで別の所員が鑑定した結果、二課は逮捕へと動いたのだ」
管理官は淡々と事実だけを口述する。
そこに感情は挟まない。研究結果のみを優先して取り扱う、プロの鑑だ。
「まだ現物を返却していなかったおかげで、もう少しだけ我々が調査できる」
二課は現在、容疑者を死に追いやった責任を問われている。おかげで鑑定依頼に出した証拠品を回収し忘れているのだ。
「どんな検査結果だったんですか?」
徳憲が尋ねると、管理官は忠岡の顔色を一瞥してから、デスクに手を突いた。
資料本がある。それを無造作にめくると、鑑定結果を印刷したファイルが閲覧できた。
「私文書偽造に用いられたインクが、この万年筆と一致したのだよ」
最初のコメントを投稿しよう!