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忠岡はとぼけて口笛を吹いた。下手くそ過ぎてろくに音程を取れていなかったが、彼女は延々と吹き続けた。
忠岡が悦地と密談し、行動を共にしているのも、全てグルだったからだ。
悦地は女を口説けてご満悦、忠岡は才慥の逮捕劇を通じて父親の名声にとどめを刺せるから大満足。
両者の利害は一致している。
「こんなのは推理じゃない。黒幕の筋書き通りの茶番だ、負け犬の遠吠えだ!」
徳憲は叫んでいた。もはや忠岡に敬語すら使わない。感情の昂ぶりが、彼の理性をかき消した。
「ふーん。だから何ー? それがどーしたのー?」
「ここまで言われても、あんたは何も感じないのか! 良心の呵責がないのか!」
「これで忠志くんも思い知ったでしょー? 英川に何やら相談してたみたいだけど、潰せて良かったわー」
「…………!」
ばれていた。
徳憲は忠岡の傀儡だ。永遠に心理を見透かされ、先回りされ、反撃手段を封じられて、支配され続ける無間地獄。
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