第一幕.非解決役の破綻推理

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 数字を『偽造』した痕跡として、充分に成立する証拠だった。  管理官が分析機材に顎をしゃくる。 「この顕微鏡を見たまえ。左右二台で構成される高性能顕微鏡だ。これに領収書を乗せ、特殊な照明を浴びせることで、書き足した形跡がたちどころに可視化されるのだ」 「へぇ、そういう機材なんですね」 「うむ。さらに隣の赤外線スキャンにかければ、インク成分による濃淡が識別され、不自然な書き足し部分だけ浮かび上がるのだ。科学捜査に抜かりはない」  科捜研の目はごまかせない。  不自然なものは必ず解析されるのだ。 「万年筆には院長の指紋()()が付着していたそうだ」 「他人は一切触っていない、ってことですね」  ますます院長しかあり得ない。 「犯人(ホシ)が手袋をしていた可能性はないんですか?」 「その場合、手袋の繊維質がペンに付着するはずだが、検出されなかった」  繊維質――(ほこり)のことだ。  現代科学では、手袋の細かい埃さえも回収できる。埃と同じ衣類を着用している人間が犯人だ。手袋をすれば逃げ切れるなんて時代遅れも甚だしい。
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