第一幕.非解決役の破綻推理

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()()は万年筆を使ったあと、自分の指紋だけ拭いたとか」 「拭き取った形跡もなかったそうだ。ペンのあらゆる部分には院長自身の指紋だけが残っており、誰かがこすった様子はないらしい」 「そうですか……」  徳憲は反論をやめた。  もはや結論は一つしかない。 「従って、この万年筆を使って金額を書き換えた犯人は、指紋が残っている急野怜五郎院長をおいて他にないのだ」 「指紋、か……」  徳憲はすかさず『指紋の英雄』が脳裏に浮かんだ。  察しの通り、管理官も目を伏せる。 「指紋を検出したのはご存知『指紋の英雄』だった。彼の手による鑑定だから、誰も異論を持たない。英雄さまの鑑識は絶対だからな」 「あたしは認めないわー」  異を唱えたのは忠岡だけだ。漫画みたいな声色で噛み付かれても調子が狂うが。  彼女は恩師の『無実』を信じている。万年筆の入ったビニール袋を指先でつまみ、双眸の奥に闘志を揺らめかせた。
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