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「犯人は万年筆を使ったあと、自分の指紋だけ拭いたとか」
「拭き取った形跡もなかったそうだ。ペンのあらゆる部分には院長自身の指紋だけが残っており、誰かがこすった様子はないらしい」
「そうですか……」
徳憲は反論をやめた。
もはや結論は一つしかない。
「従って、この万年筆を使って金額を書き換えた犯人は、指紋が残っている急野怜五郎院長をおいて他にないのだ」
「指紋、か……」
徳憲はすかさず『指紋の英雄』が脳裏に浮かんだ。
察しの通り、管理官も目を伏せる。
「指紋を検出したのはご存知『指紋の英雄』だった。彼の手による鑑定だから、誰も異論を持たない。英雄さまの鑑識は絶対だからな」
「あたしは認めないわー」
異を唱えたのは忠岡だけだ。漫画みたいな声色で噛み付かれても調子が狂うが。
彼女は恩師の『無実』を信じている。万年筆の入ったビニール袋を指先でつまみ、双眸の奥に闘志を揺らめかせた。
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