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「急野院長」大股で歩み寄る捜査主任。「あなたの容疑は、私文書偽造と横領だ! 領収書の金額を書き換え、経費を多めに落として着服した罪だ! 院長の立場を悪用して!」
「な、何かの間違いだ……」しらを切るしかない院長。「……そうだ、経理の者に聞いてみてくれ。経理の知念くん! 知念慶介くんは居ないのか!」
あいにく、いらえはなかった。
代わりに前へ進み出たのは、紺色の活動服に身を包んだ老練なる偉丈夫だ。
他の刑事とは異なる格好をしている。帽子にマスク、足には不織布の靴カバー、背中には『警視庁INVESTIGATION』の黄色い文字。
――鑑識課の制服である。
テレビの刑事ドラマなどでもお馴染みの衣装だ。
しかし、今は逮捕状が発行されたあとである。鑑識課が同行する必要はないはずだ。
「残念じゃが、知念は一足先に所轄へ任意同行してもらったわい」
「は……?」
「知念こそが事件発覚の情報源だったんじゃよ」笑尉をかたどる老人。「院長の水増し請求疑惑があると、知り合いの儂に相談したのが発端じゃった……要は内部告発じゃな」
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