第一幕.非解決役の破綻推理

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「指紋の英雄とか偉そーな二つ名を持ってるけど、引退間近のボケ老人でしょーに!」 「おいおい……さすがに悪口が過ぎませんか?」  徳憲が顔をしかめるも、管理官は彼女の好きに喋らせている。 「内部告発した経理とー、指紋の英雄は知り合いなのよねー?」 「はい。親戚どうしで近所住まいだそうです」 「親戚! ふーん、いかにも身内びいきじゃなーい?」  忠岡の口が不気味に吊り上がった。  何かを悪だくみするような、童顔に似つかわしくない不穏な冷笑だ。 「どーも胡散臭いわねー」  臭いのは徹夜続きの忠岡の体臭だろ、と徳憲は思ったが、口には出さない。  忠岡が目の敵にしているのは間違いなく英川雄慈だ。英雄の指紋鑑定を逆転する秘策があるのだろうか? 「あの英雄はー、証拠を隠滅してるわねー」 「え!」  証拠隠滅とは大きく出た。  警察にあるまじき爆弾発言だ。それを鑑識課のベテランにあてつけるなんて、無礼どころではない。常軌を逸している。著しい侮辱だ。
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