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「万年筆はー、英雄が真犯人の痕跡を揉み消したんじゃないかなー?」
「は!?」
「真犯人の指紋もあったのに嘘をついたとかー、手袋の埃も故意に払い落としたとかー」
鑑識そのものを疑っているのだ、この女は。
たじろぐ徳憲の前で、はしたなく中指を立てる忠岡が実に漫画的だ。
「英雄は、親戚の真犯人をかばったのよー。親戚は経費を着服し、院長に濡れ衣を着せたんだわー! 英雄にも報酬を山分けすれば、口裏を合わせてくれるでしょー?」
禍々しいまでの邪推だ。
とんでもない『ストーリー』だった。
事件発生までの『ストーリー』を想定し、それに沿って証拠を集める……というのが警察の一般的な捜査方針である。
しかし、忠岡の『ストーリー』はあまりにも荒唐無稽だった。整合性が薄い。
「あのですね忠岡さん。仮にそうだとしたら、指紋の英雄は証拠を闇に葬ったことになりますから、あなたの説は立証できませんよ?」
根拠もなく勘繰った忠岡の方こそ糾弾されかねない。
「管理官も忠岡さんを止めて下さいよ。やっても時間の無駄ですよこれ」
「いやぁ、面白そうじゃないか」
「ええ~……?」
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